
これまでに皆様からいただいた墨の疑問やご質問に対して、できる限り詳しくお答えさせていただきました。しかし墨の世界はまだまだ未解な部分も多くございます。今後も引き続き研究を重ねてまいります。
※掲載されています情報は墨運堂に帰属しております。質問内容および回答も含め、他に転用/転載を禁止いたします。
A1.墨造りの最も大切な点は、いかに均一な暢びの良い膠液を造るかにかかっています。これまでは分子量分布の幅の広い、適度に脂肪分を含んだ二次加工のし易い膠を、墨専用膠として専属業者が製造してくれておりました。
墨専用膠は外に用途も少なく、多品種少量生産を強いられますので、その規模は特殊技術をもった家業として代々受け継がれてきたのです。
それが昭和60年代までに環境問題・技術者の高齢化・3Kの重労働・後継者不足のため次々と廃業を余儀なくされ、現在に至ってはもはや安定供給は不可能になりました。
膠その物が無くなった訳ではありませんが、墨造りに最も適した専用膠が無くなったのです。
これまでの墨造りでは、専用膠2~3種類を配合し、一定温度の下に溶解時間(平均6時間、物によっては24時間以上)のコントロールで、容易に流れの良い膠液を調整できましたが、今では精製された分子量分布の幅の狭い膠を、墨の骨格造りに2~3種類、色出しに2~3種類、合計4~6種類が必要なため従来に比べ非常に複雑になっています。
また、組成の異なる膠の種類が多くなりますと、中には熱に弱い膠もあり、溶解時間のコントロールだけでは墨造りに必要な均一な膠液造りが難しく、新たな溶解技術の開発に取り組み、試行錯誤を繰り返しておりました。
平成5年にこの開発に取り組みまして、平成9年に基本的な膠配合、新たな膠の溶解技術によりこれまで以上に均一な膠液ができるようになりました。
この方法で造りました墨を「平成の墨」と呼び平成10年から販売をさせて戴きました。平成の墨の特徴は昭和の墨に比べ、多少誇張した表現になりますが、膠の薄い膜を一枚はがした様な“風呂上がりのような”墨色と言えます。
それだけに、もう一方の原料であります煤の持ち味をよりシャープに表現できますので、一煤煙一銘柄の原則を守り、個性のある墨造りを進めて参ります。
この研究の過程で皆様にご迷惑をかけておりました、墨の割れの問題、煤煙組成による新墨の発砲(アワ)の問題も大幅に改善することができました。
もとより墨色・書き味は、ご愛用戴きます皆様お一人お一人のお好みによりますので、原料環境の変化により開発して参りました平成の墨と昭和の墨をご試墨戴き、忌憚のないご意見・ご指摘を賜りますようお願い致します。
墨専用膠は外に用途も少なく、多品種少量生産を強いられますので、その規模は特殊技術をもった家業として代々受け継がれてきたのです。
それが昭和60年代までに環境問題・技術者の高齢化・3Kの重労働・後継者不足のため次々と廃業を余儀なくされ、現在に至ってはもはや安定供給は不可能になりました。
膠その物が無くなった訳ではありませんが、墨造りに最も適した専用膠が無くなったのです。
これまでの墨造りでは、専用膠2~3種類を配合し、一定温度の下に溶解時間(平均6時間、物によっては24時間以上)のコントロールで、容易に流れの良い膠液を調整できましたが、今では精製された分子量分布の幅の狭い膠を、墨の骨格造りに2~3種類、色出しに2~3種類、合計4~6種類が必要なため従来に比べ非常に複雑になっています。
また、組成の異なる膠の種類が多くなりますと、中には熱に弱い膠もあり、溶解時間のコントロールだけでは墨造りに必要な均一な膠液造りが難しく、新たな溶解技術の開発に取り組み、試行錯誤を繰り返しておりました。
平成5年にこの開発に取り組みまして、平成9年に基本的な膠配合、新たな膠の溶解技術によりこれまで以上に均一な膠液ができるようになりました。
この方法で造りました墨を「平成の墨」と呼び平成10年から販売をさせて戴きました。平成の墨の特徴は昭和の墨に比べ、多少誇張した表現になりますが、膠の薄い膜を一枚はがした様な“風呂上がりのような”墨色と言えます。
それだけに、もう一方の原料であります煤の持ち味をよりシャープに表現できますので、一煤煙一銘柄の原則を守り、個性のある墨造りを進めて参ります。
この研究の過程で皆様にご迷惑をかけておりました、墨の割れの問題、煤煙組成による新墨の発砲(アワ)の問題も大幅に改善することができました。
もとより墨色・書き味は、ご愛用戴きます皆様お一人お一人のお好みによりますので、原料環境の変化により開発して参りました平成の墨と昭和の墨をご試墨戴き、忌憚のないご意見・ご指摘を賜りますようお願い致します。
A2.墨は普通の濃さ(固形分10%程度)以上でお使い戴くものと、淡墨(普通の濃さを20~30倍に薄めたもの)でお使い戴く場合があります。
淡墨用の墨は、墨色の冴えが大変重要になりますが、反面濃い状態では黒味がやや物足りなくなります。
この原因は膠の使用量の違いから起こります。黒味を強調したい墨に比べ、淡墨に使用する膠の量は1.5~2倍になります。
これは和墨と中国墨の膠の使用量の違いと考えて戴ければ良いと思います。
淡墨用の墨は、墨色の冴えが大変重要になりますが、反面濃い状態では黒味がやや物足りなくなります。
この原因は膠の使用量の違いから起こります。黒味を強調したい墨に比べ、淡墨に使用する膠の量は1.5~2倍になります。
これは和墨と中国墨の膠の使用量の違いと考えて戴ければ良いと思います。
当社の「大和雅墨」は、この淡墨使用の為に造りました一連の墨の総称であります。
中国の乾隆時代の墨の淡墨における透明感のある色調を基本に、日本人の美意識を織り込んでこれまで製造して参りました。
平成時代に入り、これまで使用して参りました膠が、日本にも中国にも無くなりましたので、これからの大和雅墨は、これまでの煙るような淡墨の美しさから、芯と滲みが比較的はっきりした透明感のある美しさに変っていきます。
原料事情により大きく変化致しますが、これまでに無い、平成の「大和雅墨」を目指して開発を進めて参ります。
中国の乾隆時代の墨の淡墨における透明感のある色調を基本に、日本人の美意識を織り込んでこれまで製造して参りました。
平成時代に入り、これまで使用して参りました膠が、日本にも中国にも無くなりましたので、これからの大和雅墨は、これまでの煙るような淡墨の美しさから、芯と滲みが比較的はっきりした透明感のある美しさに変っていきます。
原料事情により大きく変化致しますが、これまでに無い、平成の「大和雅墨」を目指して開発を進めて参ります。
今後最も変化のある墨となると思いますのでよろしくご愛顧賜りますようお願い申し上げます。
「大和雅墨」は昭和30年代初め、当時の和墨と区分する意味において、墨それぞれの特徴と色調(薄茶系、赤紫系、薄茶紫系、青系の黒、青墨、茶系の黒、茶紫系の黒等)を明記し19種類発売致しました。現在は原材料の都合で16種類になっています。
「大和雅墨」は昭和30年代初め、当時の和墨と区分する意味において、墨それぞれの特徴と色調(薄茶系、赤紫系、薄茶紫系、青系の黒、青墨、茶系の黒、茶紫系の黒等)を明記し19種類発売致しました。現在は原材料の都合で16種類になっています。
A3.「煤と膠」を原料とする墨の製法は、中国から伝来したものですから基本的には同じです。
しかし、その配合は長い年月の間に変わってきました。私はその原因は、水と民族の美意識の違いと考えます。
現在の日本の墨造りは、中国の明時代の影響を強く受けています。
しかし、その配合は長い年月の間に変わってきました。私はその原因は、水と民族の美意識の違いと考えます。
現在の日本の墨造りは、中国の明時代の影響を強く受けています。
明代の墨が清の乾隆時代に代表される様な流れの良い、淡墨の美しい墨に変化したのは、中国の水の問題なしに考えられません。
中国の水は硬水で、私達軟水圏の日本人は、あの生水を飲みますと腹痛を起こすことが多々あります。
硬水は軟水に比べて、物を溶かしたり分散させたりする力は弱いものです。
中国の水は硬水で、私達軟水圏の日本人は、あの生水を飲みますと腹痛を起こすことが多々あります。
硬水は軟水に比べて、物を溶かしたり分散させたりする力は弱いものです。
日本にも石鹸を使って泡のでない井戸水など硬度の高い水がありますが、それでも硬度は100以下の軟水なのです。
中国の水は硬度300以上の硬水です。
中国の水は硬度300以上の硬水です。
この硬水に膠を均一に分散させるためには、分子量の少ない弱い膠を多く使う必要があったのです。
そして石のような硬い墨を造り、細かく磨ることが、硬水にうまく分散させるために最も大切なことでした。
中国の墨の造り方は煤と膠を練り合わせ、その墨の塊を大きな金槌で何百回も叩いて練り合わせるのですが、文献では何千、何万回(千杵・万杵)も叩いたと書かれています。
少しオーバーですが、叩くことにより膠はへたり(弱くなる)、粘度低下を起こします。
そして石のような硬い墨を造り、細かく磨ることが、硬水にうまく分散させるために最も大切なことでした。
中国の墨の造り方は煤と膠を練り合わせ、その墨の塊を大きな金槌で何百回も叩いて練り合わせるのですが、文献では何千、何万回(千杵・万杵)も叩いたと書かれています。
少しオーバーですが、叩くことにより膠はへたり(弱くなる)、粘度低下を起こします。
その墨の塊を木型に入れ、テコの応用で人間の全体重をかけ、硬く締め上げて造ります。
そのため墨は非常に緻密にでき上がります。
そのため墨は非常に緻密にでき上がります。
日本のような湿気の多い国では、この緻密さ故に気候の変化に順応できず、割れが多くなるのはそのためです。
この時代の墨を日本の軟水で磨りますと、黒味は少し足りませんが、淡墨では透明感のある美しい墨色となります。
当社でこの淡墨の美しさを表現するために造り上げたのが、「大和雅墨」であり「百選墨」なのです。
この当時の、漢民族の美意識は完璧を美とするもので、陶磁器を見ても私たち日本人には少し暑苦しい感じが致します。
しかし、この時代に完成した紙、筆はそれ以後の書道用具の頂点に君臨しています。
当社でこの淡墨の美しさを表現するために造り上げたのが、「大和雅墨」であり「百選墨」なのです。
この当時の、漢民族の美意識は完璧を美とするもので、陶磁器を見ても私たち日本人には少し暑苦しい感じが致します。
しかし、この時代に完成した紙、筆はそれ以後の書道用具の頂点に君臨しています。
紙も筆も墨も硬水の下で、如何に滑らかに柔らかく書けるかを追い求めた、漢民族の美意識の極致なのかもしれません。
一方日本は軟水圏にあり、その水は良く物を溶かし分散してくれますので、比較的強い膠が使えますし、日本人の美意識は黒味の冴えた物、言い換えれば白黒のはっきりした物にすがすがしさを感じます。
また、墨もあまり石のように硬いと嫌がられ、滑らかに磨れてさらりとした書き味が好まれます。
一方日本は軟水圏にあり、その水は良く物を溶かし分散してくれますので、比較的強い膠が使えますし、日本人の美意識は黒味の冴えた物、言い換えれば白黒のはっきりした物にすがすがしさを感じます。
また、墨もあまり石のように硬いと嫌がられ、滑らかに磨れてさらりとした書き味が好まれます。
明墨の影響を受け、それ以後日本人の美意識に磨かれてきたのが和墨造りと言えます。
和墨造りは煤10に対し膠6が標準であるのに対し、唐墨造りは煤10に対し膠10以上となります。
A4.焚き方による煤の違いからお話し致します。昔のお灯明、お寺などでご覧になったことがあるかと思いますが、素焼きの皿に種油を入れ、イ草の芯を浸して火をつけ明かりとします。
油煙焚きの方法は、そのお灯明の炎の先から10cm程離してお皿(釜)をかぶせ、そのお皿に煤を集めて一定時間後掃き採ります。
「手焚き油煙」は、小部屋にこのお灯明を沢山置き、注油、お皿の回転、採煙を繰り返し採取します。
この方法を「芯焚き法」と言います。機械焚きの場合も原理は同じです。この焚き方をしますと、炎の先から近い所で煤を集めるものですから煤に高温が加わり、焼き締めたような煤になります。煤の粒子の大きさは、芯の太さで加減します。
細い芯で焚けば、粒子の細かい煤になりますし、太い芯で焚けば、炎も大きく粒子の大きい煤を採ることができます。
油煙は菜種・桐・胡麻など植物性油や重油・軽油・灯油など鉱物性油から、この芯焚き法で採ることができます。鉱物性油の場合は、燃焼温度も高くより固い煤になります。
現在は環境問題のこともあり、集塵の難しい芯焚き法は植物性油のみで鉱物性油は採っておりません。芯焚き油煙は、固く焼き締められた均一な大きさの粒子です。
一方松煙採りは、障子などで隔離された比較的大きな空間で空気の流通を少なくし、松材を直接不完全燃焼させて煤を採る方法で、油煙のように煤自体に高温はかかりませんから、柔らかく凝集した粒子の煤になります。
この方法を「直火焚き法」と呼んでいます。焚き方には、油煙タイプ採りの「芯焚き法」と、松煙タイプ採りの「直火焚き法」があり、液体原料は芯焚きが、固形原料は直火焚きが適しています。
直火焚き法でも炎の大きさを加減することにより、細かい粒子から大きな粒子まで採り分けることができますが、芯焚き程粒子の大きさの揃った煤を採るためには、さらに分粒装置が必要になります。
植物性松煙は赤松の表皮を削り取り、その後に刃物目を入れ、暫く放置しておくと松脂が吹き出します。それを削り取り、乾燥させた後、細い棒状に小割りして樟子張りの部屋の中で直火焚き法で採取します。
小割りした松材をさらに細くし、空気の流入を抑え小さな炎で採煙しますと、細かい赤みの美しい煤が採取できますが、炎のコントロールが難しく、収量も極端に少なくなりますので大変高価な物になります。
この直火焚き法では、採煙部屋も大きく、炎の調節ができませんので、小さな粒子から大きな粒子まで、混然一体に混じった柔らかく凝集した煤になります。
松煙は細かい粒子だけの時は赤系に、少し大きな粒子が混じり始めると茶系に、さらに大きな粒子が増えると紫紺色に、ほとんど大きな粒子になりますと青系になるとお考え下さい。
油煙タイプの煤は、焼き締められていますから、煤自体凝集するのが遅いのですが、松煙タイプの煤は、あまり高温がかかっておりませんので、細かい粒子が凝集して大きな固まりになり、年月と共に青系に変化していくと考えています。
また松材を燃やすため、松が地中から吸い上げた硫黄分など雑多な物質を含んでいます。これらが膠を変質させ膠の分解を早め、より煤の凝集を早めています。
古来、油煙墨に比べ松煙墨の寿命が短く、そして青墨化していくのはこのためと考えられていますが、私達にもまだまだ解らないことが沢山あり、これがまた変化の多い松煙墨の魅力でもあります。
現在製造しております青墨は、赤松を直火焚きで大きな粒子で採煙したもので、茶系の粒子の10倍から100倍近くの大きさになります。現在では、この直火焚き法が進歩し、限定空間で焚けるようになりました。
また、集塵装置も良くなり、炎の調節・分粒も可能で、多量生産致します工業煙の主流設備となりました。本来、液体原料は芯焚き、固形原料は直火焚きとなっておりましたが、液体原料も直火焚きで燃やせるようになりました。
菜種油を直火焚きで燃やしますと、焼き締められない柔らかな凝集体の煤になります。
油煙焚きの方法は、そのお灯明の炎の先から10cm程離してお皿(釜)をかぶせ、そのお皿に煤を集めて一定時間後掃き採ります。
「手焚き油煙」は、小部屋にこのお灯明を沢山置き、注油、お皿の回転、採煙を繰り返し採取します。
この方法を「芯焚き法」と言います。機械焚きの場合も原理は同じです。この焚き方をしますと、炎の先から近い所で煤を集めるものですから煤に高温が加わり、焼き締めたような煤になります。煤の粒子の大きさは、芯の太さで加減します。
細い芯で焚けば、粒子の細かい煤になりますし、太い芯で焚けば、炎も大きく粒子の大きい煤を採ることができます。
油煙は菜種・桐・胡麻など植物性油や重油・軽油・灯油など鉱物性油から、この芯焚き法で採ることができます。鉱物性油の場合は、燃焼温度も高くより固い煤になります。
現在は環境問題のこともあり、集塵の難しい芯焚き法は植物性油のみで鉱物性油は採っておりません。芯焚き油煙は、固く焼き締められた均一な大きさの粒子です。
一方松煙採りは、障子などで隔離された比較的大きな空間で空気の流通を少なくし、松材を直接不完全燃焼させて煤を採る方法で、油煙のように煤自体に高温はかかりませんから、柔らかく凝集した粒子の煤になります。
この方法を「直火焚き法」と呼んでいます。焚き方には、油煙タイプ採りの「芯焚き法」と、松煙タイプ採りの「直火焚き法」があり、液体原料は芯焚きが、固形原料は直火焚きが適しています。
直火焚き法でも炎の大きさを加減することにより、細かい粒子から大きな粒子まで採り分けることができますが、芯焚き程粒子の大きさの揃った煤を採るためには、さらに分粒装置が必要になります。
植物性松煙は赤松の表皮を削り取り、その後に刃物目を入れ、暫く放置しておくと松脂が吹き出します。それを削り取り、乾燥させた後、細い棒状に小割りして樟子張りの部屋の中で直火焚き法で採取します。
小割りした松材をさらに細くし、空気の流入を抑え小さな炎で採煙しますと、細かい赤みの美しい煤が採取できますが、炎のコントロールが難しく、収量も極端に少なくなりますので大変高価な物になります。
この直火焚き法では、採煙部屋も大きく、炎の調節ができませんので、小さな粒子から大きな粒子まで、混然一体に混じった柔らかく凝集した煤になります。
松煙は細かい粒子だけの時は赤系に、少し大きな粒子が混じり始めると茶系に、さらに大きな粒子が増えると紫紺色に、ほとんど大きな粒子になりますと青系になるとお考え下さい。
油煙タイプの煤は、焼き締められていますから、煤自体凝集するのが遅いのですが、松煙タイプの煤は、あまり高温がかかっておりませんので、細かい粒子が凝集して大きな固まりになり、年月と共に青系に変化していくと考えています。
また松材を燃やすため、松が地中から吸い上げた硫黄分など雑多な物質を含んでいます。これらが膠を変質させ膠の分解を早め、より煤の凝集を早めています。
古来、油煙墨に比べ松煙墨の寿命が短く、そして青墨化していくのはこのためと考えられていますが、私達にもまだまだ解らないことが沢山あり、これがまた変化の多い松煙墨の魅力でもあります。
現在製造しております青墨は、赤松を直火焚きで大きな粒子で採煙したもので、茶系の粒子の10倍から100倍近くの大きさになります。現在では、この直火焚き法が進歩し、限定空間で焚けるようになりました。
また、集塵装置も良くなり、炎の調節・分粒も可能で、多量生産致します工業煙の主流設備となりました。本来、液体原料は芯焚き、固形原料は直火焚きとなっておりましたが、液体原料も直火焚きで燃やせるようになりました。
菜種油を直火焚きで燃やしますと、焼き締められない柔らかな凝集体の煤になります。
電子顕微鏡でみた煤の世界
(倍率5万倍)
1ナノメーターは1/100万mmです
植物性油煙手焚き
原料:菜種油
菜種油を灯芯で燃焼させ、採取する。
1ナノメーターは1/100万mmです
植物性油煙手焚き
原料:菜種油
菜種油を灯芯で燃焼させ、採取する。
粒子径:15~50ナノメーター
細かい粒子がくっ付いて一つの塊を形成しています。
この系統の煤は茶系です。
油煙機械焚き
原料:菜種油
※チャンネルブラック方式で採煙。
細かい粒子がくっ付いて一つの塊を形成しています。
この系統の煤は茶系です。
油煙機械焚き
原料:菜種油
※チャンネルブラック方式で採煙。
粒子径:30~80ナノメーター
細かい粒子がくっ付いて一つの塊を形成しています。この系統の煤は茶系です。
細かい粒子がくっ付いて一つの塊を形成しています。この系統の煤は茶系です。
※炎を金属面に衝突させてすすを生産する方法で、ローラ方式とディスク方式があります。
松煙障子焚き
原料:松の幹
1間四方の障子小屋で焚いた煙
松煙障子焚き
原料:松の幹
1間四方の障子小屋で焚いた煙
粒子径:20~300ナノメーター
粗い粒子と細かい粒子がくっ付いて一つの塊に形成されています。
この系統の煤は青から赤系まであります。
松煙直火焚き
原料:松の根
松の根を細割にしてそのまま燃やして採煙する。
粗い粒子と細かい粒子がくっ付いて一つの塊に形成されています。
この系統の煤は青から赤系まであります。
松煙直火焚き
原料:松の根
松の根を細割にしてそのまま燃やして採煙する。
粒子径:20~300ナノメーター
大きい粒子と細かい粒子が混在し、それぞれがくっ付いて巨大な塊を形成しています。
一つの塊は1マイクロメーター(ミリミクロン)以上。この系統は煤は青系。
ファーネスト式(ガス)
原料:天然ガス等
高温の炉に原料を注ぎ瞬時に炭化させる。
大きい粒子と細かい粒子が混在し、それぞれがくっ付いて巨大な塊を形成しています。
一つの塊は1マイクロメーター(ミリミクロン)以上。この系統は煤は青系。
ファーネスト式(ガス)
原料:天然ガス等
高温の炉に原料を注ぎ瞬時に炭化させる。
粒子径:150~400ナノメーター
比較的大きな不揃いの粒子がくっ付いて、さらに大きな塊を形成しています。
比較的大きな不揃いの粒子がくっ付いて、さらに大きな塊を形成しています。
A5.固形墨と液体墨の根本的な違いは、硯で磨るか磨らないかにあります。
当たり前のことですが、大きな違いがあります。
固形墨を磨りますと、硯それぞれの鋒鋩の持ち味により変化(分散)しますが、粒子径の幅の広いものとなります。
硯の鋒鋩には必ず粗密があり、その鋒鋩が作り出す粒子径を中心として、細かい物から粗い物まで幅広い粒子の存在する磨墨液は、濃い時には重厚さを、淡墨の時には立体感を表現します。
固形墨を磨りますと、硯それぞれの鋒鋩の持ち味により変化(分散)しますが、粒子径の幅の広いものとなります。
硯の鋒鋩には必ず粗密があり、その鋒鋩が作り出す粒子径を中心として、細かい物から粗い物まで幅広い粒子の存在する磨墨液は、濃い時には重厚さを、淡墨の時には立体感を表現します。
言い換えれば硯石が作り出す分散液なのです。
一方液体墨は、工場で造った時の分散状態が基準となり、かつ、液の分散を良くするために、粒子径の揃った原料を使いますのできれいなのですが、濃い時にはやや重厚さに欠け、淡墨においてはやや平面的になります。
時間の経過と共に少しずつ凝集沈殿が起こり、この傾向は益々進みます。
一方液体墨は、工場で造った時の分散状態が基準となり、かつ、液の分散を良くするために、粒子径の揃った原料を使いますのできれいなのですが、濃い時にはやや重厚さに欠け、淡墨においてはやや平面的になります。
時間の経過と共に少しずつ凝集沈殿が起こり、この傾向は益々進みます。
ただ、膠使用の液体墨は、加水分解による蛋白質の分解があり、合成糊剤使用の液体墨より劣化による凝集が早いので、短時間に新墨から古墨までの疑似的表現を味わえる面白みもありますが、淡墨以外での使用は表具を困難にします。
原料面から申しますと、膠の皮膜は硬く割れ易いのですが、透明度が良く製造後3~5年経ちますと、膠も枯れ独特の冴えがでて参ります。
一方液体墨の場合、膠使用製品は、加水分解を抑えるため塩分(ニガリ 主成分塩化マグネシウム)が入っていますので、乾きにくく冴えのない皮膜となります。合成糊剤使用製品の皮膜は、弾力性があり割れることはありませんが、冴えに少し物足りなさを感じます。
一方液体墨の場合、膠使用製品は、加水分解を抑えるため塩分(ニガリ 主成分塩化マグネシウム)が入っていますので、乾きにくく冴えのない皮膜となります。合成糊剤使用製品の皮膜は、弾力性があり割れることはありませんが、冴えに少し物足りなさを感じます。

物性面から申しますと、固形墨は膠のゲル化を利用して造りますので、新墨では水温18℃前後(固形分10%程度の普通の濃さ)以下になりますと、急激に粘度が増加し、ゼリ-状に固まる性質をもっています。
冬季冷たい水で磨られた時、思うような磨墨液が得られなかったご経験をおもちの方も多いと思いますが、これが膠の性質なのです。
年数が経ちますとゲル化温度も膠の枯れと共に下がってきます。
このことが、墨が枯れて書き易くなる大きな原因なのです。良い分散液にするためには18℃以上の水温が必要とお考え下さい。
一方の液体墨はゲル化を塩分で抑えるか、合成のようにゲル化がないものですから、低温になれば粘度は高くなりますが、粘度曲線はなだらかてす。
冬季、屋外でご揮毫の場合は液体墨が適しています。皮膜の点から申しますと、膠の皮膜は硬くて割れ易いものです。
表面に浮(墨溜まり)が出るほどの濃墨作品を表具しますと、表具の善し悪しにもよりますが、墨溜まりに亀裂が入ったり、最悪の場合は剥離することがあります。これは膠の皮膜が硬く壊れ易いためです。
表具技術は膠の皮膜の弱さをカバ-する技術でもあると思います。
冬季冷たい水で磨られた時、思うような磨墨液が得られなかったご経験をおもちの方も多いと思いますが、これが膠の性質なのです。
年数が経ちますとゲル化温度も膠の枯れと共に下がってきます。
このことが、墨が枯れて書き易くなる大きな原因なのです。良い分散液にするためには18℃以上の水温が必要とお考え下さい。
一方の液体墨はゲル化を塩分で抑えるか、合成のようにゲル化がないものですから、低温になれば粘度は高くなりますが、粘度曲線はなだらかてす。
冬季、屋外でご揮毫の場合は液体墨が適しています。皮膜の点から申しますと、膠の皮膜は硬くて割れ易いものです。
表面に浮(墨溜まり)が出るほどの濃墨作品を表具しますと、表具の善し悪しにもよりますが、墨溜まりに亀裂が入ったり、最悪の場合は剥離することがあります。これは膠の皮膜が硬く壊れ易いためです。
表具技術は膠の皮膜の弱さをカバ-する技術でもあると思います。
膠使用の液体墨は濃墨では表具できませんので論外ですが、合成糊剤の皮膜は前述のように柔軟性をもってますし、乾燥防止剤は塩分のように皮膜に残らず、固形墨より少し乾燥時間は掛かりますが、良く乾燥しますと固形墨より安全です。乾燥時間を少し遅くしているのは、建物の機密性が良くなり、冷暖房の効果で湿度が低く乾き易いため、乾燥による濃度・粘度上昇を抑えるためです。
濃墨・超濃墨での作品作りは、合成糊剤皮膜の柔軟性と表具性の良さが必要なのです。
A6.ご質問にお答えする前に、なぜ合成糊剤使用の液体墨ができたのかをお話しします。
ご存じの通り昭和30年頃までは、液体墨と言えば墨汁しかありませんでした。
ご存じの通り昭和30年頃までは、液体墨と言えば墨汁しかありませんでした。
これは膠と煤を練り合わせ、ニガリ(主成分 塩化マグネシウム)を大量に加え、液の比重を上げ、煤の沈殿を押さえると同時に塩漬けにすることにより膠のゲル化を防止し、さらにホルマリンで膠の腐敗を止めたものです。
この製品は和紙には向きませんが、吸い込みの少ない洋紙には黒光りして、絵の具の黒では出せない美しさを持ていましたので、非常に乾燥が遅いのですが良く売れていました。
反面、吸い込みの強い紙に書きますと皮膜を作る膠液が紙に吸いとられ、煤だけが表面に残り品の無い黒になり、おまけに乾燥が遅く、また、一度乾いても梅雨時分には空気中の水分を吸ってべたつく代物で、勿論表具のできるものではありません。
戦後10年近く経過し世の中も収まり、書道を志す人も増え始め、学校教育にも書写が取り入れられるようになりました。
この時期に先生方から墨汁に代わる乾きの早い、和紙に適した墨色の良い学童用の液体墨を造るようにとのご依頼を沢山戴くようになりました。
これからの学校教育には、授業時間の制約上良質な液体墨が必要になる。
この製品は和紙には向きませんが、吸い込みの少ない洋紙には黒光りして、絵の具の黒では出せない美しさを持ていましたので、非常に乾燥が遅いのですが良く売れていました。
反面、吸い込みの強い紙に書きますと皮膜を作る膠液が紙に吸いとられ、煤だけが表面に残り品の無い黒になり、おまけに乾燥が遅く、また、一度乾いても梅雨時分には空気中の水分を吸ってべたつく代物で、勿論表具のできるものではありません。
戦後10年近く経過し世の中も収まり、書道を志す人も増え始め、学校教育にも書写が取り入れられるようになりました。
この時期に先生方から墨汁に代わる乾きの早い、和紙に適した墨色の良い学童用の液体墨を造るようにとのご依頼を沢山戴くようになりました。
これからの学校教育には、授業時間の制約上良質な液体墨が必要になる。
日本の書写教育のために早急に開発するようにとのことでした。
膠は固形墨を造るためには、これほど重要で便利な材料はありません。科学技術の進んだ現在でも膠に代わり得る材料は無いのです。
膠は固形墨を造るためには、これほど重要で便利な材料はありません。科学技術の進んだ現在でも膠に代わり得る材料は無いのです。
膠の持つ特質に、温度が下がるとゲル化するという性質があります。
煮魚の汁が、冬の寒い日にゼリ-状ににこごり、大変おいしいことは皆様もご存じのことと思います。
これは魚の膠質が気温の低下でゼリ-化したものです。
この性質を利用して冬に固形墨を造ります。
これは魚の膠質が気温の低下でゼリ-化したものです。
この性質を利用して冬に固形墨を造ります。
膠は蛋白質ですので、細菌の寒天培養と同じく、気温の高い時期に製造しますと空気中の雑菌を拾い猛烈な勢いで繁殖し腐敗します。
墨が厳寒期に製造されるのは、腐敗菌の繁殖を抑えゲル化強度を高め、墨の内部から低温乾燥し墨を均一に締め上げていくのが墨造りで、墨がこの世に生まれてから2000年以上になりますが、この原理は変わりません。
墨が厳寒期に製造されるのは、腐敗菌の繁殖を抑えゲル化強度を高め、墨の内部から低温乾燥し墨を均一に締め上げていくのが墨造りで、墨がこの世に生まれてから2000年以上になりますが、この原理は変わりません。
日本における墨の故郷奈良では、冬の風物詩になっております。

「宿墨は使うな」とお聞きになったことはあるかと思います。
また、日本画ではその都度、顔料を膠で練ってお使いになっているのをご存じかと思います。これには原因があるのです。
膠は固形墨の内部に取り込んで乾燥しますと100年単位の安定した状態を保ちますが、水中では加水分解により、急激に高分子の鎖が断ち切られ粘性の低下が始まります。
また、腐敗による蛋白質の分解が始まると1日単位で粘性が無くなり、強烈な腐敗臭を発生し作品を台なしにする危険があります。
そのため磨墨液は、磨ったその日に使いきり、使った筆、硯はきれいに洗っておくことを教えているのが“宿墨は使うな”ということなのです。
また、2~3日前に溶解した膠液で顔料を練って用いた場合は、近い将来に顔料の剥離が起こりますし、最悪の場合は作品から悪臭を発することもあります。
これ程取り扱いが難しいのが膠なのです。
このことからお解りのように、固形墨には最も適した材料である膠は、安定な液体墨を造るための材料としては、最も不安定な物なのです。
「すらずに書ける」液体墨の開発の最初は、勿論膠の二次処理から始まりました。
- ゲル化を止めること
- 加水分解による粘度低下をできるだけ遅くすること
- 腐敗を止めること
これが安定した液体墨を造るための条件です。当時から墨汁を造っておりましたので大体の目安をつけることはできました。
先ず、ゲル化温度の低い低重合度の膠(分子量の小さい低粘度の膠が最も安定)を探すこと。
それによりニガリ(塩化マグネシウム)の量を減らすことができ乾燥が早くなる。防腐処理を完全にする。
この開発を通じて、あらゆる膠の試験を繰り返すことにより、先代社長は膠の性質を会得し、かつ、液体墨の原料としての膠の物理的限界を感じたのかもしれません。
膨大な試作試験の結果、高濃度の練り墨状にすることにより、これまでに無い書道専用の液体墨として、“すらずに書ける”「墨の精練り墨」として発売させて戴きましたところ、法外のご好評を得て生産が追いつかず、お得意先様にご迷惑をかけながらも会社発展の大きな第一歩の開発となりました。
黒みはやや弱いものの淡墨では美しい色調が、以後の淡墨専用の「条幅用墨の精」に発展しています。
しかし、蛋白質の加水分解による粘度・分散力の低下は、薬物、機械の高度化でも自然の摂理には逆らえず限界があります。
塩分で膠のゲル化を抑えることが、より表具性を弱くし、その上加水分解による粘度低下により、煤の凝集が起こるのですから益々弱くなるのです。
ただ表現において、この蛋白質の分解の過程で芯と滲みのバランスが変化しますので、淡墨用としては面白いと思いますし表具も充分可能です。
膠を原料とした液体墨を普通の濃さ(固形分10%程度)以上の濃度で使い、表具屋さんに持ち込みますと、さすがはプロで一目で見分け、フィクサ-という合成樹脂製の固着剤をサッと吹き付け表具してくれます。
何のことは無い、この製品は固形墨と同じ天然膠で造りましたと売り込んでも、できあがった作品の上に、合成の皮膜がもう一枚乗るのです。表具屋さんで吹き付けてくれる合成樹脂の皮膜が、余白の部分まで飛び散り、時間経過と共に変色する紙に、曼陀羅模様が出るのではないかと心配しています。
表具屋さんにどうして見分けるのかを聞きますと、“寝ている墨は危ない”、“起きている墨は大丈夫”と禅問答のような返事です。
よくよく聞ききますと、紙が縮んで入れば大丈夫、縮んでいなければ危ないと解り納得しました。
先代社長は、練り墨はを開発する過程で徹底的に膠を研究し、液体墨の原料としての膠の物理的限界を感じたのでしょう。
ここに全く膠を使わない、新しい液体墨を造ろう。
先代社長は、練り墨はを開発する過程で徹底的に膠を研究し、液体墨の原料としての膠の物理的限界を感じたのでしょう。
ここに全く膠を使わない、新しい液体墨を造ろう。
それはゲル化のない、加水分解もない、腐敗しない、そして表具のできる学童に使いやすい液体墨でなければならない。
これが合成糊剤を原料とする液体墨の開発の始まりとなったのです。
手慣れた膠を使わないのですから、何から手をつけていいか皆目解りませんでした。
これまでの墨屋のカンだけでは手も足も出ないと考えた先代社長は、当時工業試験場の場長を務めていた兄に相談し、技術者を採用して開発を始めたのです。その頃は高分子科学もまだまだで、それほど種類も無かったと思います。
昭和33年頃にはポリアクリル酸ソ-ダ-を原料として、液体墨らしい物ができ上がりました。
膠を使いませんからゲル化もありませんので、ニガリも要りません。水中でも膠と比較できないほど安定です。
合成物ですからそれ自体の腐敗もありませんし、表具性も完璧です。夢のような材料ですが、ただ一つカ-ボンとの相性が悪いのです。
手慣れた膠を使わないのですから、何から手をつけていいか皆目解りませんでした。
これまでの墨屋のカンだけでは手も足も出ないと考えた先代社長は、当時工業試験場の場長を務めていた兄に相談し、技術者を採用して開発を始めたのです。その頃は高分子科学もまだまだで、それほど種類も無かったと思います。
昭和33年頃にはポリアクリル酸ソ-ダ-を原料として、液体墨らしい物ができ上がりました。
膠を使いませんからゲル化もありませんので、ニガリも要りません。水中でも膠と比較できないほど安定です。
合成物ですからそれ自体の腐敗もありませんし、表具性も完璧です。夢のような材料ですが、ただ一つカ-ボンとの相性が悪いのです。
墨屋用に造った原料ではありませんし、膠とは丸っきり性質も違います。
これまで使っていた町の鍛冶屋の混和機程度では皆目歯が立たず、6kgのカ-ボンを処理するのに1日掛かる始末で、それでも完全な分散ではありません。
一番大きな欠点は膠製品に比べ書きにくいことです。それでも珍しいのか少しずつ売れ始めました。
担当していた技術者は墨屋の将来に見切りをつけたのかやめていきました。
当時大学生で応用化学を専攻していた現会長は、まだ教養課程で何の知識もありませんでしたが、先代社長から次々に質問が参りました。文献を調べ、高分子化学の教授に意見を聞き、訳も分からず報告したものが、社長経由で現場にいくという始末で、この時から合成樹脂を原料とした墨液の開発が現会長の仕事となりました。
爾来40年近く、その間には大失敗もありお得意先、先生方に大変ご迷惑をかけたこともありましたが、改良に改良を加え、初期の液体墨とは丸っきり違う配合となりましたが、次々に新製品を世に出すことができ、会社発展の第二の開発となりました。
書き味につきましても、固形墨と比べれば今一歩の感がありますが、膠を原料とした液体墨に比べ遜色の無いところまで参りました。
これまで使っていた町の鍛冶屋の混和機程度では皆目歯が立たず、6kgのカ-ボンを処理するのに1日掛かる始末で、それでも完全な分散ではありません。
一番大きな欠点は膠製品に比べ書きにくいことです。それでも珍しいのか少しずつ売れ始めました。
担当していた技術者は墨屋の将来に見切りをつけたのかやめていきました。
当時大学生で応用化学を専攻していた現会長は、まだ教養課程で何の知識もありませんでしたが、先代社長から次々に質問が参りました。文献を調べ、高分子化学の教授に意見を聞き、訳も分からず報告したものが、社長経由で現場にいくという始末で、この時から合成樹脂を原料とした墨液の開発が現会長の仕事となりました。
爾来40年近く、その間には大失敗もありお得意先、先生方に大変ご迷惑をかけたこともありましたが、改良に改良を加え、初期の液体墨とは丸っきり違う配合となりましたが、次々に新製品を世に出すことができ、会社発展の第二の開発となりました。
書き味につきましても、固形墨と比べれば今一歩の感がありますが、膠を原料とした液体墨に比べ遜色の無いところまで参りました。
A7.現在も墨はすべて手造り品です。その価格は、原材料の価格差と造る職人さんの技量により大きく変わります。
安価な墨は、経験年数の少ない職人さんが造ります。
最もコストに影響するのは原料の違いです。学童用のKg当たり5~600円の煤から、手焚き油煙(植物性油煙)のKg当たり5万円前後の物まで、さらに高価な純植物性松煙などその差は百倍以上になります。
人件費・特に原材料費をベ-スに価格は決まりますが、それが墨の良否を決定づけるものではありません。
ただ安いからといって品質が悪いとお考えにならない様にお願い致します。
学童用の墨は、現在一番大量に造られている最もポピュラーな煤を原料としています。
少し根底の赤みは少ないのですが、大人の方の練習用にも充分使って戴けます。
墨の値段から申しますと最高品と最低品の価格差は、10倍程度ですから高級品ほど割安になります。
安価な墨は、経験年数の少ない職人さんが造ります。
最もコストに影響するのは原料の違いです。学童用のKg当たり5~600円の煤から、手焚き油煙(植物性油煙)のKg当たり5万円前後の物まで、さらに高価な純植物性松煙などその差は百倍以上になります。
人件費・特に原材料費をベ-スに価格は決まりますが、それが墨の良否を決定づけるものではありません。
ただ安いからといって品質が悪いとお考えにならない様にお願い致します。
学童用の墨は、現在一番大量に造られている最もポピュラーな煤を原料としています。
少し根底の赤みは少ないのですが、大人の方の練習用にも充分使って戴けます。
墨の値段から申しますと最高品と最低品の価格差は、10倍程度ですから高級品ほど割安になります。
これは人件費の差が原料費の差ほど大きくないためです。
相対的に粒子の細かい根底の赤みの強いものが高価な墨ですし、淡墨における透明感のでる墨は技術的にも難しく高価になります。
相対的に粒子の細かい根底の赤みの強いものが高価な墨ですし、淡墨における透明感のでる墨は技術的にも難しく高価になります。
A8.一般的に仮名用(細字)・写経用は暢びの良い墨が好まれます。
そのため仮名用は、粒子の細かい植物性油煙を原料とします。
粒子が細かくなればなるほど煤の表面積が大きくなり、それだけ膠の必要量も多くなりますので、流れは良くなりますが黒味は弱くなります。
漢字用は黒味を大切にしますので、一般的には仮名用ほど細かい煤は使いません。
また、漢字用を仮名に使っても問題はありません。
現在の墨造りは、仮名用も漢字用も良く分散するようにできています。
仮名用の硯は小形の物が多いので墨も使い勝手が良いように小型の物を造ります。
作品造りの上で黒味を強く出したい時には漢字用を、黒味を押さえて品よく表現したい時には仮名用をお使い下さい。
また、仮名條幅用の場合は漢字・仮名の区別はあまりありませんが、素紙・加工紙に合うかどうかと墨色のお好みによります。
料紙など胡粉の強い紙には、それ向きの墨を用意しております。
ご相談下さい。
そのため仮名用は、粒子の細かい植物性油煙を原料とします。
粒子が細かくなればなるほど煤の表面積が大きくなり、それだけ膠の必要量も多くなりますので、流れは良くなりますが黒味は弱くなります。
漢字用は黒味を大切にしますので、一般的には仮名用ほど細かい煤は使いません。
また、漢字用を仮名に使っても問題はありません。
現在の墨造りは、仮名用も漢字用も良く分散するようにできています。
仮名用の硯は小形の物が多いので墨も使い勝手が良いように小型の物を造ります。
作品造りの上で黒味を強く出したい時には漢字用を、黒味を押さえて品よく表現したい時には仮名用をお使い下さい。
また、仮名條幅用の場合は漢字・仮名の区別はあまりありませんが、素紙・加工紙に合うかどうかと墨色のお好みによります。
料紙など胡粉の強い紙には、それ向きの墨を用意しております。
ご相談下さい。
A9.お買い上げの際に、ご試墨をして戴けないことを申し訳なく思います。
墨造りの大切なポイントは、均一な流れの良い膠液を造ることと、煤と膠を良く練り合わせることです。
この基本的な作業ができていれば新墨としては及第です。
出来の善し悪しは製品の墨の肌に現れます。
墨の型は梨の木でできていますが、墨の肌に、この型の木目が写っていれば、練りの良く効いた墨と言えます。
また、“墨は軽い方が良い”とお聞きになったことがおありかと思いますが、これは古墨のことで、新墨で軽いふかふかした物は、練りも悪く流れも良くありません。
また、空気中の湿気を吸い易く命の短い墨色の汚い物です。
市場で販売している墨は、製造後5年以下の物が大半ですので、持ち重みのする墨肌の緻密な物をお選び下さい。
重くとも湿気の感じる物は良くありません。
墨に木目が写り、良く乾燥していて、持ち重みのする墨を選んで戴ければまず間違いはありません。
墨造りの大切なポイントは、均一な流れの良い膠液を造ることと、煤と膠を良く練り合わせることです。
この基本的な作業ができていれば新墨としては及第です。
出来の善し悪しは製品の墨の肌に現れます。
墨の型は梨の木でできていますが、墨の肌に、この型の木目が写っていれば、練りの良く効いた墨と言えます。
また、“墨は軽い方が良い”とお聞きになったことがおありかと思いますが、これは古墨のことで、新墨で軽いふかふかした物は、練りも悪く流れも良くありません。
また、空気中の湿気を吸い易く命の短い墨色の汚い物です。
市場で販売している墨は、製造後5年以下の物が大半ですので、持ち重みのする墨肌の緻密な物をお選び下さい。
重くとも湿気の感じる物は良くありません。
墨に木目が写り、良く乾燥していて、持ち重みのする墨を選んで戴ければまず間違いはありません。
A10.「煤と膠」を原料とする墨は、日々の気候条件に順応して絶えず変化しています。
中でも膠は、湿気の多い日は水分を取り込み、乾燥した日は放出し、自然環境に順応して成長しています。
急激な温度・湿度変化、例えば、直射日光の当たる所、湿気の多い所、冷暖房機の風が直接当たる所は最も嫌う場所です。
四季の影響の少ない所、例えば、土蔵の中などは理想的ですが、現実的ではありません。
墨の桐箱は土蔵と同じ条件を持っています。
従って直射日光の当たらない引き出しの中や箪笥の中で湿気の少ない所が良いでしょう。
気密性の高い箱や水滴に水が入ったままの硯箱に長く入れることは良くありません。
カビや腐敗、割れの原因になりますのでご注意下さい。
中でも膠は、湿気の多い日は水分を取り込み、乾燥した日は放出し、自然環境に順応して成長しています。
急激な温度・湿度変化、例えば、直射日光の当たる所、湿気の多い所、冷暖房機の風が直接当たる所は最も嫌う場所です。
四季の影響の少ない所、例えば、土蔵の中などは理想的ですが、現実的ではありません。
墨の桐箱は土蔵と同じ条件を持っています。
従って直射日光の当たらない引き出しの中や箪笥の中で湿気の少ない所が良いでしょう。
気密性の高い箱や水滴に水が入ったままの硯箱に長く入れることは良くありません。
カビや腐敗、割れの原因になりますのでご注意下さい。
A11.墨の原料の一つである膠の匂いを消すために用いられた香料は、使う人の気持ちを落ち着かせるという副次的な作用もあります。

墨に使用する香料は刺激的な香りではなく、側に置いておくと、そこはかとなく香りが漂ってくるという“幽香”です。
昔は天然香料の甘松末・白檀・龍脳・梅花・麝香等を使用しておりました。
今では、合成香料の梅花・麝香等多種普及しておりますが、弊社では龍脳を主として使用しております。
墨の箱を明けた時に漂う香りは、振香(ふりか)といって包装時に箱に入れる香料の香りです。
墨を磨って初めて漂う香りが典雅を好む墨客に愛され、後に良墨は芳香を持つものとなったようです。
写真は、麝香鹿の香嚢です。この中に香料が入っています。
昔は天然香料の甘松末・白檀・龍脳・梅花・麝香等を使用しておりました。
今では、合成香料の梅花・麝香等多種普及しておりますが、弊社では龍脳を主として使用しております。
墨の箱を明けた時に漂う香りは、振香(ふりか)といって包装時に箱に入れる香料の香りです。
墨を磨って初めて漂う香りが典雅を好む墨客に愛され、後に良墨は芳香を持つものとなったようです。
写真は、麝香鹿の香嚢です。この中に香料が入っています。
A12.墨造りの最も大切な点は、如何にして均一な膠液を造るかと言うことと、均一に練り上げるかと言うことです。
墨の善し悪しは煤によることもありますが、膠が最も大切です。
膠はコラーゲンを含むゼラチンを主成分としたタンパクの一種です。
墨は膠の持つ特性を利用したものです。
その膠の特性とは、
- 水温が18℃以下になりますと急激に増粘し、ついにはゼリー状に固まります。
これをゲル化すると言います。
ゲル化温度は膠により異なります。 - 蛋白質ですので、水中では急激に膠の高分子の鎖が切断され粘度低下を起こし、酸化作用により炭酸ガスと水に変化致します。
これを加水分解と言います。 - 動物性蛋白質ですから細菌の最高の食料であり、非常に腐敗し易い物です。
今回のご質問にお答えするためには、膠という接着剤の持つ3つの性格(ゲル化する・加水分解を受ける・腐敗し易い)が大変重要になります。
墨造りを冬場に行いますのは、ゲル化を利用して墨の内部から水分を抜き、均一に締め上げるためですし、空気中の雑菌が少なく、その繁殖を抑えることができるためです。
また、加水分解を遅らせるためには、均一に良く練り上げた墨でなければなりません。
練りの悪い、軽い墨を造りますと、空気の流通が良いため割れにくいのですが、湿気を吸い易く、加水分解により膠の分解が早いため煤の凝集が進み、墨の寿命を極端に縮めます。
このような墨は紙に書きましても、煤が微粒子にならず紙繊維への浸透が阻害され、ただ紙の上に煤が乗っている状態になり、墨色も悪く表具性も悪くなります。
墨の枯れは、自然界における蛋白質の分解の過程であり、この分解の過程においてその表現の変化を長く楽しむためには、加水分解をできるだけ抑えることが大切で、そのための墨造りは、均一な膠液で良く練り上げ緻密な墨を造り上げることが、大変重要であります。
良く練り上げられた緻密な墨の磨墨液は、紙への浸透も良く、煤が紙の繊維の奥深くまで絡み付き、冴えた墨色になりますし、表具性も格段に良くなります。
A14.墨は「煤と膠」を練り合わせ、固めて乾かしたもので、製法的には殆ど完成されています。
筆のバランスのとれた締まり具合いは、平均的な配合から申しますと、練りと均一な膠の溶解技術に原因があります。
複数の性質の違う膠を、如何に均一に溶解するかが墨造りの最も大切なことなのです。
見かけの溶解と真の溶解には大きな差が出て参ります。
言葉で表現することは難しいのですが、どぼどぼした溶解液と油のように滑らかな流れの良い溶解液とでは、煤と練り合わせる時に影響を与えます。
締まりの悪い墨は、暢びや紙への浸透性も悪く、淡墨の時には濁りが出て参ります。
膠の溶解が不均一で、煤との練りに手抜きがありますと最悪の墨となります。
ただ原料の膠、煤とも毎回同じ品質とは言い切れませんので、締まり具合いに微妙な誤差がでて参ります。
墨造りに従事する私達にとりまして、最も神経を使う点がご質問の点であります。
筆の締まり具合のバランスは、お使いになる皆様のお好みにもよりますが、締まり過ぎると筆さばきに難がでて参ります。
出来の良い墨は、新墨のうちは締まりが強いものですから筆さばきに重さを感じますが、製造後3~5年経過してお使い戴ければ、この重さも消え使い易くなります。
この原因は墨造りに必要な膠の量と書く時に必要な膠の量に差があり、造るための量が少し多いことに起因します。
この時の新墨は、20%近くの水分を内蔵しておりまして、3~5年の間に加水分解により余分の膠が分解して、書く時に適した膠量になるためです。
詳しいことは「墨の枯れ」Q18の項ご参照下さい。
筆のバランスのとれた締まり具合いは、平均的な配合から申しますと、練りと均一な膠の溶解技術に原因があります。
複数の性質の違う膠を、如何に均一に溶解するかが墨造りの最も大切なことなのです。
見かけの溶解と真の溶解には大きな差が出て参ります。
言葉で表現することは難しいのですが、どぼどぼした溶解液と油のように滑らかな流れの良い溶解液とでは、煤と練り合わせる時に影響を与えます。
締まりの悪い墨は、暢びや紙への浸透性も悪く、淡墨の時には濁りが出て参ります。
膠の溶解が不均一で、煤との練りに手抜きがありますと最悪の墨となります。
ただ原料の膠、煤とも毎回同じ品質とは言い切れませんので、締まり具合いに微妙な誤差がでて参ります。
墨造りに従事する私達にとりまして、最も神経を使う点がご質問の点であります。
筆の締まり具合のバランスは、お使いになる皆様のお好みにもよりますが、締まり過ぎると筆さばきに難がでて参ります。
出来の良い墨は、新墨のうちは締まりが強いものですから筆さばきに重さを感じますが、製造後3~5年経過してお使い戴ければ、この重さも消え使い易くなります。
この原因は墨造りに必要な膠の量と書く時に必要な膠の量に差があり、造るための量が少し多いことに起因します。
この時の新墨は、20%近くの水分を内蔵しておりまして、3~5年の間に加水分解により余分の膠が分解して、書く時に適した膠量になるためです。
詳しいことは「墨の枯れ」Q18の項ご参照下さい。
A17.使用する膠の強・弱(分子量の大・小)により異なります。
弱い(分子量の小さい)膠程安定な物ですが、煤を練り上げるのに一定の粘度が必要なため、膠の使用量が多くなり、その結果黒味が弱くなります。
強い膠を少なめに用いた場合は、黒味が強くなりますが墨の枯れが早くなります。
当社では一般の和墨造りでは、黒味を強調するため少し強い膠を用い、大和雅墨など淡墨の美しさを強調する場合は、弱い膠を少し多く用いています。
昭和30年代以後は、墨造り技術が進み緻密な造りになっておりますので、和墨造りであっても、人の寿命以上の使用に耐える寿命をもっておりますし、淡墨用造りでは、その2~3倍の寿命があるものとこれまでの経験から推察しております。
ただ、墨の寿命も生まれてからの環境によって大きく変化します。
湿気の多い所や冷暖房機の風が直接当たる所は墨にとって一大脅威です。
枯れるまでに腐敗したり割れてしまっては何にもなりません。
使用後は水気をふき取り箱にいれて保管されることをお勧めします。
弱い(分子量の小さい)膠程安定な物ですが、煤を練り上げるのに一定の粘度が必要なため、膠の使用量が多くなり、その結果黒味が弱くなります。
強い膠を少なめに用いた場合は、黒味が強くなりますが墨の枯れが早くなります。
当社では一般の和墨造りでは、黒味を強調するため少し強い膠を用い、大和雅墨など淡墨の美しさを強調する場合は、弱い膠を少し多く用いています。
昭和30年代以後は、墨造り技術が進み緻密な造りになっておりますので、和墨造りであっても、人の寿命以上の使用に耐える寿命をもっておりますし、淡墨用造りでは、その2~3倍の寿命があるものとこれまでの経験から推察しております。
ただ、墨の寿命も生まれてからの環境によって大きく変化します。
湿気の多い所や冷暖房機の風が直接当たる所は墨にとって一大脅威です。
枯れるまでに腐敗したり割れてしまっては何にもなりません。
使用後は水気をふき取り箱にいれて保管されることをお勧めします。
A18.一番大きい原因は墨造りにあります。
煤を練って固める為に必要とする膠の量が、書く時に必要とする膠の量より多いと言うことです。
新墨は粘るとか筆が重いとか感じられるのはこのためです。
膠はコラーゲンを含むゼラチンを主成分とする蛋白質の一種です。
膠は水の中で高分子から低分子へと変化していきます。これを加水分解と言います。
また、膠独特の性質として気温が18℃以下になりますとゼリー伏に固まり、これを「ゲル化」と言います。
墨を冬場に造るのは、膠の腐敗を抑えゲル化を利用するためです。
新墨はその体内に20%程度の水分を保持しており、その水分で膠の加水分解が起こります。
気湿が18℃以下になりますと膠のゲル化が起こり、体内の水分を排徐し、20℃以上になりますと膠のゲル化が止まり、外部から水分を取り入れます。
この働きを毎年繰り返し、徐々に体内の水分量を下げていきます。
新墨から3~5年が、加水分解による膠の粘度低下の一番大きい時なのです。
この頃を過ぎますと書く時に必要な膠の量に近づいてきます。
さらに年数を経過しますと加水分解が進み、膠の力が低下し、煤を分散させる力も弱まりますので、筆跡がしっかり残り透明感のある滲みに変化します。
勿論、運筆も軽やかて濃墨でも書き易くなります。言い換えれば墨の枯れとは、白然界における蛋白質(膠)の分解の過程なのです。
このことでもお解りのように、墨は湿気の多い所で保管すると寿命は極端に短くなりますし、時には腐敗菌が繁殖し数日で分解することすらあります。
同じ条件の下に生まれた墨も、それ以後の環境で大さく変化しますので、必ずしも古い墨はすべて良いとは言い切れません。
磨墨後、磨り口側面部を拭き、湿気の少ない所に保管することが大事なのです。
良い条件で保管された墨は100年200年の寿命をもっています。
勿論、墨造りも大切でよく練れた緻密な墨でなければなりません。
新墨は粘るとか筆が重いとか感じられるのはこのためです。
膠はコラーゲンを含むゼラチンを主成分とする蛋白質の一種です。
膠は水の中で高分子から低分子へと変化していきます。これを加水分解と言います。
また、膠独特の性質として気温が18℃以下になりますとゼリー伏に固まり、これを「ゲル化」と言います。
墨を冬場に造るのは、膠の腐敗を抑えゲル化を利用するためです。
新墨はその体内に20%程度の水分を保持しており、その水分で膠の加水分解が起こります。
気湿が18℃以下になりますと膠のゲル化が起こり、体内の水分を排徐し、20℃以上になりますと膠のゲル化が止まり、外部から水分を取り入れます。
この働きを毎年繰り返し、徐々に体内の水分量を下げていきます。
新墨から3~5年が、加水分解による膠の粘度低下の一番大きい時なのです。
この頃を過ぎますと書く時に必要な膠の量に近づいてきます。
さらに年数を経過しますと加水分解が進み、膠の力が低下し、煤を分散させる力も弱まりますので、筆跡がしっかり残り透明感のある滲みに変化します。
勿論、運筆も軽やかて濃墨でも書き易くなります。言い換えれば墨の枯れとは、白然界における蛋白質(膠)の分解の過程なのです。
このことでもお解りのように、墨は湿気の多い所で保管すると寿命は極端に短くなりますし、時には腐敗菌が繁殖し数日で分解することすらあります。
同じ条件の下に生まれた墨も、それ以後の環境で大さく変化しますので、必ずしも古い墨はすべて良いとは言い切れません。
磨墨後、磨り口側面部を拭き、湿気の少ない所に保管することが大事なのです。
良い条件で保管された墨は100年200年の寿命をもっています。
勿論、墨造りも大切でよく練れた緻密な墨でなければなりません。
A19.大変難しいご質問です。墨を造る私達は、新墨の期間を3~5年と考えています。
これは墨を造る時に必要な膠の量が、この期間に加水分解され書く時に必要な膠の量に近づいてきますし、墨の持つ水分量も安定して、加水分解もこれ以後はゆっくりしだものになるからです。
墨の寿命は墨がどのような環境の下に保存されるかにかかっています。
湿度100%・気温30℃で放置しますと1ヵ月ももちません。
温度、湿度の比較的低い条件の良い所(土蔵など)で保存致しますと数百年の寿命をもちます。
墨は我が身を磨り減らしてその役目を果たす物ですが、一方墨自体は湿度に大変弱い物なのです。
同じ日に製造した百丁の同質の墨が、未使用のまま10年後には、それぞれの環境の影響を受け完全に駄墨になり果てた物から、昨日造った物かと思える物まで百種類の異なった墨に変身するのです。
現在、日本に保存されている明代や清代の墨の中に、完全に膠の生きている見事な墨が残っています。
これは大名の道具飾りなどとして、水を見ること無しに最高の保存環境の中で伝来して来たものです。
墨の枯れは、言い換えれば、膠という蛋白質の自然界における分解の過程なのです。
墨造りの独断と偏見で申しますと、湿度の少ない机の引き出しなどに桐箱などに入れて保存された状態で、最も書き易くなる製造後10~15年経過した墨から古墨と言っていいのではないかと思います。
墨造りから考えます古墨とは、現在使用に耐える墨であり歴史的、骨董的価値ではありません。
これは墨を造る時に必要な膠の量が、この期間に加水分解され書く時に必要な膠の量に近づいてきますし、墨の持つ水分量も安定して、加水分解もこれ以後はゆっくりしだものになるからです。
墨の寿命は墨がどのような環境の下に保存されるかにかかっています。
湿度100%・気温30℃で放置しますと1ヵ月ももちません。
温度、湿度の比較的低い条件の良い所(土蔵など)で保存致しますと数百年の寿命をもちます。
墨は我が身を磨り減らしてその役目を果たす物ですが、一方墨自体は湿度に大変弱い物なのです。
同じ日に製造した百丁の同質の墨が、未使用のまま10年後には、それぞれの環境の影響を受け完全に駄墨になり果てた物から、昨日造った物かと思える物まで百種類の異なった墨に変身するのです。
現在、日本に保存されている明代や清代の墨の中に、完全に膠の生きている見事な墨が残っています。
これは大名の道具飾りなどとして、水を見ること無しに最高の保存環境の中で伝来して来たものです。
墨の枯れは、言い換えれば、膠という蛋白質の自然界における分解の過程なのです。
墨造りの独断と偏見で申しますと、湿度の少ない机の引き出しなどに桐箱などに入れて保存された状態で、最も書き易くなる製造後10~15年経過した墨から古墨と言っていいのではないかと思います。
墨造りから考えます古墨とは、現在使用に耐える墨であり歴史的、骨董的価値ではありません。
A21.墨は湿度に最も弱く、また、余り急激に乾燥し過ぎることも良くありません。
特に新墨の時の過度の乾燥は、割れの原因になるのです。
販売店の陳列ケースの中は熱源もあり、特に湿度の少ない環境になっています。
その乾き切った墨を磨りますと水分が墨の表面に回り膨張します。
しかも緻密に造られた墨ほど内部に水分を取り込みにくく、墨の表面と内部の水分による膨張の差が大きくなり、割れの原因になるのです。
この現象を抑えるために、流通の過程だけフイルム包装をしています。
お買い上げ後はフイルムを外して戴いて結構ですが、墨がご家庭の環境に慣れるまで少し時間をおいて戴ければ有り難いのですが。
墨の枯れには適度の湿気も必要なのです。
ただフイルム包装をしていましても、墨は販売店で過度に乾燥していますから過度な湿気は禁物です。
特に新墨の時の過度の乾燥は、割れの原因になるのです。
販売店の陳列ケースの中は熱源もあり、特に湿度の少ない環境になっています。
その乾き切った墨を磨りますと水分が墨の表面に回り膨張します。
しかも緻密に造られた墨ほど内部に水分を取り込みにくく、墨の表面と内部の水分による膨張の差が大きくなり、割れの原因になるのです。
この現象を抑えるために、流通の過程だけフイルム包装をしています。
お買い上げ後はフイルムを外して戴いて結構ですが、墨がご家庭の環境に慣れるまで少し時間をおいて戴ければ有り難いのですが。
墨の枯れには適度の湿気も必要なのです。
ただフイルム包装をしていましても、墨は販売店で過度に乾燥していますから過度な湿気は禁物です。
A22.煤の色合いは燃やす原料や燃やし方によって異なります。
色合いの基準は、菜種油の芯焚き油煙墨の淡墨の色を茶系として、これより赤く感じるものを赤系、青く感じるものを紫紺系、青系に分類しています。
芯焚き植物性油煙は、油の種類により多少の色目は変わりますが大体において茶系です。
芯焚き鉱物性油煙は、その油の燃焼温度の違いにより茶系から紫紺系まであります。
松煙のように木の樹脂を木片もろとも燃やす直火焚きでは、酸素の供給量の加減、木の乾燥状態、焚き窯(装置)の違いにより赤系から青系まであります。
また直火焚きで鉱物性固形物、鉱物性油を焚いても赤系から青系まで採取することができます。
松の木を直火焚きしたのが本来の松煙ですが、直火焚きで採取した煤の総称まで松煙と称するようになりましたので、当社では本来の松を焚いた物を「純植物性松煙」、鉱物性原料を直火焚きした物を「鉱物性松煙」と呼んでいます。
この焚き方による煤の性質が良く似ているためです。
青墨の煤はこの直火焚き法の中から生まれます。
青系の煤の粒子は赤系、茶系の粒子の10倍以上の大きなものです。
赤系、茶系の粒子は一般的には細かい粒子の集まり、紫紺系は細かい粒子と粗い粒子の混合体、青系は粗い粒子の集まりと考えて戴ければ良いと思います。
色合いの基準は、菜種油の芯焚き油煙墨の淡墨の色を茶系として、これより赤く感じるものを赤系、青く感じるものを紫紺系、青系に分類しています。
芯焚き植物性油煙は、油の種類により多少の色目は変わりますが大体において茶系です。
芯焚き鉱物性油煙は、その油の燃焼温度の違いにより茶系から紫紺系まであります。
松煙のように木の樹脂を木片もろとも燃やす直火焚きでは、酸素の供給量の加減、木の乾燥状態、焚き窯(装置)の違いにより赤系から青系まであります。
また直火焚きで鉱物性固形物、鉱物性油を焚いても赤系から青系まで採取することができます。
松の木を直火焚きしたのが本来の松煙ですが、直火焚きで採取した煤の総称まで松煙と称するようになりましたので、当社では本来の松を焚いた物を「純植物性松煙」、鉱物性原料を直火焚きした物を「鉱物性松煙」と呼んでいます。
この焚き方による煤の性質が良く似ているためです。
青墨の煤はこの直火焚き法の中から生まれます。
青系の煤の粒子は赤系、茶系の粒子の10倍以上の大きなものです。
赤系、茶系の粒子は一般的には細かい粒子の集まり、紫紺系は細かい粒子と粗い粒子の混合体、青系は粗い粒子の集まりと考えて戴ければ良いと思います。
A23.これまでにもお話ししてきましたように、松煙墨は最初茶墨でありましても、長い年月の内に青墨化して参ります。
紙に書いた状態でも青墨化したものを、私は過去に見ております。
それはお経の巻物でしたが、書かれている内容、書かれた時代はその時ご説明を受けたのですが、今は記憶に無く、ただ巻物の初めの方が青墨化していて、巻物を全部見ますと、後ろの方は明らかに茶系の松煙墨でした。
あまりの見事な変化に、ただただ感動致しまして今でも鮮明に覚えています。
松煙墨は紙に書いた状態でも青墨化致します。
もう一つ例を挙げておきます。
木の看板に墨でお書きになる場合は必ず油煙墨をお使いになることです。
油煙墨は木に浸透して長い年月風雨にさらされ木自体が痩せてきても、文字は浮き上がって残りますが、松煙墨で書きますと、風雨などにさらされ急激に青墨化し、最後には文字が剥離してしまいます。
紙に書いた状態でも青墨化したものを、私は過去に見ております。
それはお経の巻物でしたが、書かれている内容、書かれた時代はその時ご説明を受けたのですが、今は記憶に無く、ただ巻物の初めの方が青墨化していて、巻物を全部見ますと、後ろの方は明らかに茶系の松煙墨でした。
あまりの見事な変化に、ただただ感動致しまして今でも鮮明に覚えています。
松煙墨は紙に書いた状態でも青墨化致します。
もう一つ例を挙げておきます。
木の看板に墨でお書きになる場合は必ず油煙墨をお使いになることです。
油煙墨は木に浸透して長い年月風雨にさらされ木自体が痩せてきても、文字は浮き上がって残りますが、松煙墨で書きますと、風雨などにさらされ急激に青墨化し、最後には文字が剥離してしまいます。
A24.本来青墨は煤自体の青さを表現するものでありますが、原料のロット振れが大きく色調が一定致しません。
その色調を補正するために、ごく少量の天然藍を用いて参りました。
また藍で補正した物は、その旨を墨の説明書に明記して参りました。
いつ頃からか青墨は絵の具の青のような色と考えられるのか、もっと青く、もっと青くとのご希望があり墨屋もどんどん藍を加えて青さの競争になってしまいました。
現在は筆が青く染まるほどの化学染料を含んだ青墨が一般的となり、純粋な青墨用松煙とは似ても似つかない色になったのです。
また染料は煤に比べて極端に耐光性が弱く、作品その物が変色する危険性があります。
当社では、天然の藍を墨(彩墨 藍)にした物がありますので、青みを強調されたい方はお好みの色まで磨り込まれたら良いと思います。
当社の青松煙始め多くの青墨は、これまでの青さを抑え、原料本来の持つ青さを大切に平成10年から製造を切り変えております。
その色調を補正するために、ごく少量の天然藍を用いて参りました。
また藍で補正した物は、その旨を墨の説明書に明記して参りました。
いつ頃からか青墨は絵の具の青のような色と考えられるのか、もっと青く、もっと青くとのご希望があり墨屋もどんどん藍を加えて青さの競争になってしまいました。
現在は筆が青く染まるほどの化学染料を含んだ青墨が一般的となり、純粋な青墨用松煙とは似ても似つかない色になったのです。
また染料は煤に比べて極端に耐光性が弱く、作品その物が変色する危険性があります。
当社では、天然の藍を墨(彩墨 藍)にした物がありますので、青みを強調されたい方はお好みの色まで磨り込まれたら良いと思います。
当社の青松煙始め多くの青墨は、これまでの青さを抑え、原料本来の持つ青さを大切に平成10年から製造を切り変えております。
A25.日本の固形墨も中国の固形墨も原料は共に膠ですから、磨り合わせても問題はありません。
ただ現在の中国の墨は膠が極端に強くなっています。
ただ現在の中国の墨は膠が極端に強くなっています。
墨専用の膠を造るところが急激な都市化の流れに押され廃業を余儀なくされ完全に無くなりました。
接着用の強い膠を、無理に長い時間炊き詰めて粘度を落とし造っているのですが、流れの悪さは避けられません。
中国の墨も文化大革命以前の物であれば、充分使い物になりますので磨り合わせても面白いかと思います。
古墨と新墨を磨り合わせて、芯と滲みのバランスを変えたり、個性の違う墨を磨り合わせて、ご自分だけの墨色を造ることができるのは固形墨だけですのでお試し下さい。
接着用の強い膠を、無理に長い時間炊き詰めて粘度を落とし造っているのですが、流れの悪さは避けられません。
中国の墨も文化大革命以前の物であれば、充分使い物になりますので磨り合わせても面白いかと思います。
古墨と新墨を磨り合わせて、芯と滲みのバランスを変えたり、個性の違う墨を磨り合わせて、ご自分だけの墨色を造ることができるのは固形墨だけですのでお試し下さい。
A26.煙墨も松煙墨も共に膠で固めていますので、混ぜ合わせても問題はありません。
原料の性質から、普通濃度以上の場合は一般的に油煙墨の黒は反射色、松煙墨の黒は吸収色ですので、混ぜ合わすことによりその間の調子をとることができます。
淡墨における美しさ、透明感は松煙墨が勝っておりますので、松煙墨の色調の異なるもの同士を混ぜる方が良く、油煙墨との混ぜ合わせは淡墨においては少し濁るように思います。
何分これはお使い戴く皆様方のお好みの問題であります。
はっきり言えますことは煤の粒子は松煙墨より油煙墨の方が細かい物ですから、松煙墨に油煙墨を磨り込みますと流動性が良くなり書き易くなります。
原料の性質から、普通濃度以上の場合は一般的に油煙墨の黒は反射色、松煙墨の黒は吸収色ですので、混ぜ合わすことによりその間の調子をとることができます。
淡墨における美しさ、透明感は松煙墨が勝っておりますので、松煙墨の色調の異なるもの同士を混ぜる方が良く、油煙墨との混ぜ合わせは淡墨においては少し濁るように思います。
何分これはお使い戴く皆様方のお好みの問題であります。
はっきり言えますことは煤の粒子は松煙墨より油煙墨の方が細かい物ですから、松煙墨に油煙墨を磨り込みますと流動性が良くなり書き易くなります。
A27.固形墨は膠で造ります。液体墨は膠で造った物と、合成糊材で造った物の2種類あります。
膠同士の製品は混ぜることができますが、膠製品と合成糊材の製品は混ぜることができません。
造る立場から申しますと、混ぜ合わせて戴かないのがベターですが、お使い戴く皆様がご自分だけの色調、粘り(筆の抵抗)をお求めになりますのもまた自然の流れと思います。
ご注意申し上げたいのは、まず少量の混合で合うかどうか試して戴いて、淡墨で変な滲みが出ないか、煤が凝集しないかを調べて下さい。
また、一見大丈夫に見えましても、時間の経過と共に変化が現れる場合がよくありますので混合したものはできるだけ早くお使い戴くことです。
長時間おかれることは良くありません。特に気温の高い時期にはご注意下さい。
冷蔵庫に入れておられることがありますが防腐に少し効果があるだけで、加水分解は止まりませんし、表具性が極端に悪くなります。
※液体墨に固形墨を磨り合わせる場合は、組成が丸っきり違いますので、濃墨の場合などに凝集沈殿を起こすことがあります。
液体は液体同士混ぜて下さい。ただ液体墨はメーカーによりその組成は大きく違いますので、始めは少量でお試し下さい。
膠同士の製品は混ぜることができますが、膠製品と合成糊材の製品は混ぜることができません。
造る立場から申しますと、混ぜ合わせて戴かないのがベターですが、お使い戴く皆様がご自分だけの色調、粘り(筆の抵抗)をお求めになりますのもまた自然の流れと思います。
ご注意申し上げたいのは、まず少量の混合で合うかどうか試して戴いて、淡墨で変な滲みが出ないか、煤が凝集しないかを調べて下さい。
また、一見大丈夫に見えましても、時間の経過と共に変化が現れる場合がよくありますので混合したものはできるだけ早くお使い戴くことです。
長時間おかれることは良くありません。特に気温の高い時期にはご注意下さい。
冷蔵庫に入れておられることがありますが防腐に少し効果があるだけで、加水分解は止まりませんし、表具性が極端に悪くなります。
※液体墨に固形墨を磨り合わせる場合は、組成が丸っきり違いますので、濃墨の場合などに凝集沈殿を起こすことがあります。
液体は液体同士混ぜて下さい。ただ液体墨はメーカーによりその組成は大きく違いますので、始めは少量でお試し下さい。
A28.墨を磨る水は「木の葉にたまった朝露」が良いと聞かれたことがあると思います。
墨には軟水(特に硬度20~60)が良いことは、カーボンの分散・暢びがよく特に滑らかな書き味が得られる点で事実でありますし、幸いなことに日本は軟水域であります。
一般的には硬度が高くなりますと運筆に硬さと重さが感じられ、分散・暢びにも影響を与えます。
しかし硬水がすべて悪いのかと言いますと、その水の組成により一概に言えません。
水の硬度は一般的に100未満を軟水、100~300を中硬水、300以上を硬水と分類されているようですが、現代ほど世界の数多くの水(ミネラルウオーター)を経験できる時代はありません。
硬度20程度から硬度1500程度まで販売されていますので、一度お試しになっては如何ですか。
墨には軟水(特に硬度20~60)が良いことは、カーボンの分散・暢びがよく特に滑らかな書き味が得られる点で事実でありますし、幸いなことに日本は軟水域であります。
一般的には硬度が高くなりますと運筆に硬さと重さが感じられ、分散・暢びにも影響を与えます。
しかし硬水がすべて悪いのかと言いますと、その水の組成により一概に言えません。
水の硬度は一般的に100未満を軟水、100~300を中硬水、300以上を硬水と分類されているようですが、現代ほど世界の数多くの水(ミネラルウオーター)を経験できる時代はありません。
硬度20程度から硬度1500程度まで販売されていますので、一度お試しになっては如何ですか。
A29.膠の特性として水温が18℃以下になりますと増粘しゲル化します。
冬場の暖かい部屋の中でも硯が冷えていたり水温が低い場合は、磨り下ろした墨がそのまま分散しないで水中でゲル化してしまい発墨いたしません。
冬の午前中は墨の下りも悪く発墨も悪いが、午後には良くなるという経験のお持ちの方も多いとお思います。
分散の良い磨墨液を得るためには、水温は必ず20℃以上が必要なのです。
冬場の暖かい部屋の中でも硯が冷えていたり水温が低い場合は、磨り下ろした墨がそのまま分散しないで水中でゲル化してしまい発墨いたしません。
冬の午前中は墨の下りも悪く発墨も悪いが、午後には良くなるという経験のお持ちの方も多いとお思います。
分散の良い磨墨液を得るためには、水温は必ず20℃以上が必要なのです。
冬場などは部屋を20℃以上に保ち、硯に40~50℃のお湯を注いで磨って戴きますと良い磨墨液が得られます。
冬の野外でのご使用は液体墨の方が向いています。
10℃前後の低い水温で磨りますと疑似古墨調の分散になりますので、淡墨では思わぬ表現ができることもあります。
水温を変えて色々お試し戴くのも面白いと思います。
冬の野外でのご使用は液体墨の方が向いています。
10℃前後の低い水温で磨りますと疑似古墨調の分散になりますので、淡墨では思わぬ表現ができることもあります。
水温を変えて色々お試し戴くのも面白いと思います。
A30.
- 淡墨の場合、最初濃く磨ってあとで薄めるのが良いと言われるが、最初から一定量を薄く磨ったものとの違いは。
硯の鋒鋩により芯と滲みのバランスは大きく変わります。
細かい鋒鋩の硯も比較的粗い鋒鋩の硯も、その特性を生かすことにより色々な淡墨を楽しめます。
大切な点は墨磨りにあります。淡墨使用であっても墨はトロトロになるまで濃く磨って下さい。
濃く磨ることは、硯の鋒鋩における分散だけではなく、磨墨液が流動しあうことにより、より細かく分散するためです。
刃物を研ぐ時研ぎ汁を流し過ぎるとうまく刃物は研げません。
研ぎ汁が流動することにより、より冴えた研ぎができるのと原理は同じです。
墨は濃く磨り下ろして、必要な濃度まで薄めることが大切です。
磨る時の力の入れ具合いも大切で、力を入れ過ぎると粗くなります。
芯と滲みのバランス等表現の面白さを考えてお試し下さい。多量の水の中に少し磨り下ろした淡墨は、その硯の鋒鋩が作り出す分散で、硯の性質がはっきり現れますが少し硬いように思います。
濃く磨ることは磨墨液の粒子分布の幅を広げ、淡墨における冴え・立体感を表現するために大切なことと考えます。 - 墨の磨り方で墨色が違うと聞きましたがどうしてですか。
固形墨の墨色は硯の持つ鋒鋩の分散液なのです。磨り下ろした煤の大きさで色は異なって見えます。
淡墨にすれば良く解りますが、細かく磨墨した分散液は、筆跡と滲みの濃さの差が少なく明るい色調となりますが、粗く磨墨した分散液は、筆跡と滲みの差がはっきりした濁りのある暗い色調になります。
濃く使いますと細かい時は反射色であるものが粗い時には吸収色になります。
これは磨り下ろした煤の粒子の集合体の大小に起因致します。
書き味では細かく磨りますと流れが良くなり暢びも良くなりますが、粗く磨りますと暢びが悪くなり筆が重くなります。
一つの墨で硯を変えることにより、また、力の入れ加減を変えて磨墨することにより、色々の色調を表現できるのは、固形墨だけの面白みでもあります。
A31.
- 筆跡より滲みの部分が澄んだものか、そうでないか。
墨を造る時に必要な膠の量と書く時に必要な膠の量に違いがあります。
造る時に必要な膠の量が少し多いため、新墨は粘るとか暢びが悪いと感じられると思います。
新墨時は墨自体15~20%の水分を含んでいます。
冬場はゲル化により内部の水分を吐き出し、気温が20℃を越えますと空気中から水分を吸収して加水分解を起こすという変化を繰り返します。
この間に膠が分解され造る時に必要な膠量から書く時に必要な膠量へと近づいて参ります。
墨の最も変化の激しいのは製造後3~5年間で、それ以後は墨の水分量もおかれる環境により異なりますが安定して参ります。
新墨はこの3~5年間に減少する膠の量を織り込んで造っているとも言えるのです。
緻密に造られた新墨の淡墨は、筆跡と滲みの色の差はそれほどありません。
滲みの透明感もあまり感じられませんし立体感も弱いものです。
この原因は筆跡の粒子と滲みの粒子が良く似た大きさの微粒子であるためです。
年数の経過と共に加水分解により膠が少しづつ減っていきます。
長い分子が切断され短い分子が多くなりますと、煤も少しずつ凝集して参ります。
微細な凝集体が紙の繊維内部に絡み付き、そこを濾過したより細かい粒子が滲みとなりますので透明感がでて参ります。
また筆跡と滲みの差が大きくなりますので立体感もでて参ります。
この美しさをより良いものにするためにも緻密な墨造りが必要であります。
また墨の保存におきましても湿度の多い所に置きますと、加水分解が活発に起こり膠の分解も早いので、煤の凝集体も大きく育ち墨がボケると言う状態になるのです。
このような墨でも少し膠を加えた水で磨ってやりますと、思わぬ表現ができることがありますので大切にして戴きたいと思います。
墨は湿気の少ない所に保存することが大切なことはお解り戴けたと思います。 - 煤の種類で滲み方、滲みは変化するのか、また膠の影響は。
均一な固い粒子の油煙の滲みも美しいものですが、一面立体感に欠けると思います。
淡墨で面白いのは、粒子径の幅の大きい松煙系であります。
特に赤松から採る純植物性松煙は木片をそのまま燃やしますので、地中の栄養分である硫黄分や燃焼時の灰分など雑多な不純物が含まれております。
そのため膠の劣化は油煙墨より早く進み、茶系が青系に変化したり、芯と滲みの変化が早く立体感に勝っています。
芯と滲みの変化は、墨の枯れに従ってどんどん変化するものですし、最後は膠分を失い煤の塊の様になり墨としての生命を終えます。
淡墨用の墨は煤の分散を良くし、経年変化に耐えるためにより安定な分子の短い膠を多く使い、より緻密な墨に造ります。
墨の寿命も一般の墨と比べて2~3倍の寿命となります。
加水分解による抵抗力も増し墨の枯れも遅くなりますが、黒さにおいては少し物足りません。 - 筆跡の交わったところに後先の差がはっきり現れるのはどうしてか。
緻密に造られた墨は、はっきり表れるのが普通です。
古墨になって膠気の落ちた時には、この約束事が崩れる場合があります。これは膠の力によるものです。
淡墨の場合、先に書いた線の筆跡と滲みは膠の力が働いていますので、後からの線は、その膠の力に弾かれて余白のような空白ができ、下に潜ったように見えます。新墨の力が強い時ほど顕著に出ますが、膠の力が弱くなるにつれその余白は小さくなり、最後には後の線が先の線の上に乗るようになります。
墨の方から言えば、膠力の低下によるものですが紙との関係もあります。
また最近の画仙紙の中には現れないものを多く見かけるようになりました。
これまでのトロロアオイ(黄葵)に代わり化学糊が紙漉きの主流になってから多くなったように思います。
化学糊が悪いのではなく、その使い方が拙いのだと思います。
これまでに販売されている画仙紙を全国(北海道~九州)から集めて試験致しましたがほとんど化学糊でした。
最近は、分散の強い紙が増えているようで交わりの差の幅が小さくなってきているように思います。
中には訳の分からない滲み方をする紙がありました。
淡墨で汚いものは濃く書いても良いとは思いません。
紙のサンプルを入手した場合、試墨用の墨を決め、淡墨で事前にお調べ戴くことが大切です。
※液体墨では、分散剤や界面活性剤の使い過ぎで、淡墨で使いますと滲みばかりで筆跡の残らない物もたまにあります。
分散し過ぎで起こる問題でありますので、普通の濃さ以上でお使いの場合は問題あり‘ませんが、筆の毛の脂肪分を抜くことがありますから、ご使用後は良く筆を洗われた方が良いと思います。
A32.数多くの墨磨機が販売されておりますが、全機種を試したことがありませんので当社の機械について申し上げます。
良い磨墨液を得るための条件は手磨りも機械磨りも同じです。
過度の荷重をかけないこと、墨が水の中に浸かったままになっていないことです。
磨る時に墨が1cm近く水の中に浸かっている状態で磨りますと、墨がどんどん水を吸い膨張致します。
膨張して柔らかくなった墨を磨りましても溶解しているようなもので、均一な分散は得られません。
墨の劣化・腐敗の大きな原因になりますし、後の処置を誤りますと墨その物を駄目にしてしまいます。
私は墨屋に生まれましたので、毎日墨を磨らねばなりません。それも多い時には数十挺に及びますので大変な重労働です。
良い磨墨液を得るための条件は手磨りも機械磨りも同じです。
過度の荷重をかけないこと、墨が水の中に浸かったままになっていないことです。
磨る時に墨が1cm近く水の中に浸かっている状態で磨りますと、墨がどんどん水を吸い膨張致します。
膨張して柔らかくなった墨を磨りましても溶解しているようなもので、均一な分散は得られません。
墨の劣化・腐敗の大きな原因になりますし、後の処置を誤りますと墨その物を駄目にしてしまいます。
私は墨屋に生まれましたので、毎日墨を磨らねばなりません。それも多い時には数十挺に及びますので大変な重労働です。
この重労働を少しでも緩和したいために作りましたのが現在の当社の墨磨機です。
その特徴は硯板が斜めにセットされています。
その傾斜の半分まで水を入れることにより、墨は過度に水に浸かりません。
また傾斜させて回転させることにより固定された墨の硯にたいする接点は面から点に変わります。
荷重は手磨りよりも少なくてすみますし、墨に上下運動が加わりますので水に浸かる時間は半減され、手磨りに近い複雑な磨り方になります。機械ですから手磨りのように自然な荷重の変化を加えることはできませんが、一定した粒子分布の淡墨にご使用戴ける磨墨液が得られます。墨は硯の鋒鋩が作り出す分散液でありますから、硯板を変えることにより様々な磨墨液を作り出すことができます。
合成硯板は天然硯より少し粗いのですが、磨墨時間は短くてすみますし、普通の濃さ以上でお使いの場合は墨色に何ら問題はありません。淡墨の美しい滲みを大切にされる場合は、磨墨時間は倍程度掛りますが、鋒鋩の細かい天然硯板(坑仔岩)をお使い下さい。
最近滲みの強すぎる紙をよく見かけますが、淡墨で筆跡も残らない分散の強い紙には、合成硯板のような鋒鋩の少し粗い物が良く合います。当社の合成硯板は宋坑の鋒鋩に良く似たもので、濃墨でお使いの時には便利なものです。
※墨磨機の上手な使い方。
手磨りも機械磨りも同じです。20℃以上の水温でトロトロになるまで濃く磨って戴くことです。
それ以外に大切なことは、磨墨時に墨を過度に長い時間水に浸けないこと、浸けなくて済むような機構の機械が扱い上便利です。
手磨りも機械磨りも同じです。20℃以上の水温でトロトロになるまで濃く磨って戴くことです。
それ以外に大切なことは、磨墨時に墨を過度に長い時間水に浸けないこと、浸けなくて済むような機構の機械が扱い上便利です。
A33.難しいご質問でお答えのしようがありません。墨が少し硬くても柔らかくても、硯に吸い付くように滑らかに磨れるのが相性が良いと言うのでしようか。
硯の鋒鋩の硬度のムラもありますし、墨の練りの不均一さによるグリつきにもよりますのでなかなか難しいことです。
ただ松煙系の直火焚きの煤を使った墨(青墨)は粒子分布の広いもので、その凝集体も大きいものですから細かい鋒鋩の硯が適しています。
青墨を淡墨でお使いの時は、できるだけ細かい鋒鋩の硯をお使いになられた方が墨色も冴えますが、お好みにもよりますので一概には申し上げられません。
墨造りの立場から申しますと、どの硯にも相性のいい、素直な墨造りが大切と考えています。
硯の鋒鋩の硬度のムラもありますし、墨の練りの不均一さによるグリつきにもよりますのでなかなか難しいことです。
ただ松煙系の直火焚きの煤を使った墨(青墨)は粒子分布の広いもので、その凝集体も大きいものですから細かい鋒鋩の硯が適しています。
青墨を淡墨でお使いの時は、できるだけ細かい鋒鋩の硯をお使いになられた方が墨色も冴えますが、お好みにもよりますので一概には申し上げられません。
墨造りの立場から申しますと、どの硯にも相性のいい、素直な墨造りが大切と考えています。

A34.松煙墨でも油煙墨に近い粒子の細かい煤を使った物がありますが、大変高価で現在は手に入れることは難しくなりました。
現在手に入る松煙墨の粒子は油煙墨の粒子より粗く、油煙墨に比べ色調も吸収色です。
また粒子は単体で分散するのではなく凝集体で分散しますので、細かい鋒鋩の硯で磨る方がよりきれいになります。
作品制作上での効果を考えますと一概には言えませんが、固形墨の分散液は硯の鋒鋩が作り出す分散液でもありますので、松煙墨にはより細かい鋒鋩の硯が良く、淡墨時の透明感も冴えると思います。
作品の効果として少し距離を置いて見る大作の場合は、松煙墨の吸収色を利用して、少し粗目の硯をお使いになるのも面白いかと思います。
現在手に入る松煙墨の粒子は油煙墨の粒子より粗く、油煙墨に比べ色調も吸収色です。
また粒子は単体で分散するのではなく凝集体で分散しますので、細かい鋒鋩の硯で磨る方がよりきれいになります。
作品制作上での効果を考えますと一概には言えませんが、固形墨の分散液は硯の鋒鋩が作り出す分散液でもありますので、松煙墨にはより細かい鋒鋩の硯が良く、淡墨時の透明感も冴えると思います。
作品の効果として少し距離を置いて見る大作の場合は、松煙墨の吸収色を利用して、少し粗目の硯をお使いになるのも面白いかと思います。
A35.硯の鋒鋩の粗密、水温にも大きく作用されますので一概には言えません。
細かく磨り下ろした場合はさほど増粘しませんが、粗く磨りおろした場合は時間と共に粗い粒子が水中で溶解して増粘します。
勿論墨造りも大きく関係します。
一般的に言えることは、水温が20℃以上であれば膠の溶解が早いので均一に分散する時間はさほど要りませんが、水温が低いと膠の持つ低温でゲル化するという性質のため、均一にならないばかりか、磨り下ろしの際に固まる場合すらあります。
良い分散液を造るためには硯も水も20℃以上が必要なのです。
冬場はお湯をお使いになることをお勧めします。
室温が20℃以下であれば40~50℃のお湯を硯に注いで磨って戴きますと良く分散致します。
分散状態を知るためには淡墨にして筆跡の濁りを見て下さい。
練りの悪い墨や、膠の力の落ちた古墨は墨自体の問題ですので時間をおいても分散の改良にはなりません。
淡墨に透明感が感じられたらきれいに分散しています。
ご注意戴きたいのは時間をおけばおくほど良いと言うものではありません。
夏場などに長い時間をおきますと、加水分解により膠の力が急激に無くなり粒子の凝集が始まると宿墨状態になりますし、腐敗の心配もでて参ります。
宿墨の面白みを求められる場合は別ですが、磨墨液は磨ったその日中にお使いになるのがベターです。
細かく磨り下ろした場合はさほど増粘しませんが、粗く磨りおろした場合は時間と共に粗い粒子が水中で溶解して増粘します。
勿論墨造りも大きく関係します。
一般的に言えることは、水温が20℃以上であれば膠の溶解が早いので均一に分散する時間はさほど要りませんが、水温が低いと膠の持つ低温でゲル化するという性質のため、均一にならないばかりか、磨り下ろしの際に固まる場合すらあります。
良い分散液を造るためには硯も水も20℃以上が必要なのです。
冬場はお湯をお使いになることをお勧めします。
室温が20℃以下であれば40~50℃のお湯を硯に注いで磨って戴きますと良く分散致します。
分散状態を知るためには淡墨にして筆跡の濁りを見て下さい。
練りの悪い墨や、膠の力の落ちた古墨は墨自体の問題ですので時間をおいても分散の改良にはなりません。
淡墨に透明感が感じられたらきれいに分散しています。
ご注意戴きたいのは時間をおけばおくほど良いと言うものではありません。
夏場などに長い時間をおきますと、加水分解により膠の力が急激に無くなり粒子の凝集が始まると宿墨状態になりますし、腐敗の心配もでて参ります。
宿墨の面白みを求められる場合は別ですが、磨墨液は磨ったその日中にお使いになるのがベターです。
A36.固形墨も液体墨も同じですが水分が蒸発するためです。湿度の低い温度の高い部屋では特に早く起こります。
粘さは水分が一割蒸発したら、一割粘さが増すというものではありません
粘さは水分が一割蒸発したら、一割粘さが増すというものではありません
一割蒸発すると粘さは2倍にも3倍にもなります。
お使いの途中で粘くなった時に加える水の量は、手に感じる量の10%程度のごく少量から調節して下さい。
水分蒸発の早さは、固形墨・合成糊剤液体墨・膠使用液体墨の順番になります。固形墨には乾燥防止剤は入っておりません。
合成糊剤使用液体墨にはエチレングリコールと言う乾燥防止剤が入っています。
この薬は乾燥を少し遅らせるだけで、乾燥しますと紙の上に残らず表具も問題がありません。
膠使用の液体墨は塩分の関係で水分の蒸発は遅く、粘度の上昇も一番遅くなります。
しかも書いた紙の上に塩分が残り、いつまでも完全に乾きませんので皮膜形成が悪く表具の際は注意が必要です。
書いた文字の完全乾燥は線の締まりの上でも表具上も大変重要で、紙が乾いて少し縮むことが大切です。
書いた紙が全然縮まないと言うことは、塩分が紙の上に残り完全乾燥ができないと言うことで皮膜形成も完全ではありません。
また仮名書きなど少量の磨墨液の水分蒸発の調節はなかなか難しいものです。
ある程度多い目に磨って戴くこと、表面積の小さい深さのある墨池を持った硯(写経硯等)を利用し粘度上昇を遅らせて下さい。
A37.温度で変わる粘さの変化は、膠や合成糊剤の種類や使用量で変わります。
固形墨と液体墨の根本的な違いは、膠の持つ特徴であります18℃以下ではゼリー化して固まる性質にあります。
この現象をゲル化すると言います。
固形墨と液体墨の根本的な違いは、膠の持つ特徴であります18℃以下ではゼリー化して固まる性質にあります。
この現象をゲル化すると言います。

水温が18℃以下になりますと極端に粘度増加を起こし、温度が下がるに従ってプリン状に固まってしまいます。
冬場の様に水温が低い場合は、硯で磨りましても粒子が硯の鋒鋩で削り落とされた瞬間にゲル化してしまい良好な発墨は望めません。
この膠のゲル化を塩分などで止めたり、ゲル化の無い合成糊剤を使用しますと低温による粘度増加はありますが、流動性を失うことはありません。
冬場、野外や寒い室内でのご使用は液体墨の方が適しています。
固形墨の上手な使い方は室温、水温共に20℃以上にして硯も温め、この条件下でお使いになることです。
冬場、野外や寒い室内でのご使用は液体墨の方が適しています。
固形墨の上手な使い方は室温、水温共に20℃以上にして硯も温め、この条件下でお使いになることです。
墨自体の保存から見ますと気温10~18℃が最も適していますが、お使いになる時は20℃以上でお使い下さい。
A38.墨が細かく割れた場合は私たちメーカーの責任であります。申し訳ありませんが、返品して戴くようお願い致します。
交換させて戴きます。何らかの外からの力が加わり折れた墨や、使い残りの短くなった墨は、そのままでは使いにくい物です。
墨自身がもっている膠の接着力を利用して墨同士を接ぎ合わせることができます。
その墨で少しドロつく程度の濃墨まで磨り下ろし、両方の接着面に塗り接合しますと両方の膠が溶け出し融合します。
接着が悪いと磨墨中に外れる場合がありますのでご注意下さい。
簡単な方法としては、墨用接着剤(墨の精アルファ)や、もし無ければ木工ボンドで結構ですからどんどん接いでお使い下さい。
磨り口が斜めでは継ぎにくいので水平に面直しをして接着致しますと強度も強く墨磨機にもかかります。
接着剤の乾燥皮膜は、水に溶けず磨墨液の上に浮き上がりますので割り箸の先ででも取って下さい。磨墨液には何ら問題はありません。パッチワ-クの様に大きさのまちまちの墨を接ぎ合わせ、これは自分だけのオリジナルの墨だと自慢される方もおられます。

A39.墨がカスカスになるのは、膠分が加水分解により炭酸ガスと水になり空気中に放出されたためです。
その間に煤はどんどん凝集していますので、磨りましても水の中で分散することはできません。
色調も膠気が無くなっていますので、濃墨の場合は艶のない絵の具の黒のような吸収色になります。
実はこの墨が日本画で人物の頭髪を書く時に必要なのです。
膠気の抜けた墨は簡単に見つかりませんので、普通は墨に胡粉を加え墨の艶を消して使うのですが、やはり白っぽさは目につきます。
カスカスの墨に少し膠を足して使いますと思わぬ効果が期待できます。
書に使う場合は水に日本画用の膠液を少し混ぜ、この薄い膠液で磨墨して淡墨で書きますと、筆跡には古墨の凝集が見られ、滲みは透明感のある明るいものになりますので、立体感のある思わぬ表現ができることがあります。
鋒鋩の細かい硯を使い、力を入れないでトロトロになるまで濃く磨り下ろしてから希釈するのが大切です。
水温も20℃以上あることが必要です。膠液の濃さはその古墨が持つ膠の残量とも関係しますので、色々お試し下さい。
A40.膠はコラーゲンを含むゼラチンを主成分とするタンパク質の一種であります。

細菌の寒天培養と同じく膠も細菌にとっては理想的な栄養源なのです。
乾燥している時はさほどでもありませんが、水溶液に致しますと空気中から細菌を拾い、一夜の内に爆発的に繁殖します。
夏場、気温30℃前後の湿度の高い所に墨をおきますと、墨が空気中の水分を吸収すると共に細菌が侵入し黴びや腐敗の原因になるのです。墨の製造が冬に行われるのは、空気中の細菌の少ないそして細菌の繁殖しにくい低温が大切だからです。
高価な墨を細菌の餌にしてはこれ程悔しいことはありません。
ご使用後は、磨り口・側面部の水分を良く拭いて、乾燥した所で保存して戴くことが最も大切です。
多少の黴びには抵抗力がありますが腐った墨は使用できません。その墨を使いますと筆に細菌が移ります。
そして筆を洗わないで次の墨を使いますと磨墨液に侵入し、この液で書かれた作品が梅雨時分に腐敗臭を発することさえあるのです。
黴びの生えた墨をお使いの後は必ず筆を洗い、良く乾燥させておいて下さい。
膠とは大変なやっかい物ですが、固形墨にとりましてこれ程良い原料は現在でもありません。
A41.墨屋の立場から申しますと、悪いとしか申し上げようがありません。
宿墨とは、固形墨の持つ寿命を水中で数日で終わらせることです。
磨り下ろすことにより加水分解は温度にもよりますが、乾燥時とは比較にならないような猛烈なスピ-ドで進み、膠分が急激に減少し、磨墨粒子の凝集も急激に進む状態を宿墨と言います。言い換えれば短時間の内に水中で疑似古墨化をしていることです。
急激な加水分解による膠の力の低下は、大きな凝集体を作り易く、濃く使いますと紙に浸透できず、紙の表面に乗っている状態で墨色も汚く、表具性も極端に悪くなります。おおげさに言えば消し炭の粉で書いたような品の無い作品になる恐れがあります。
宿墨は水中での疑似古墨化と申しましたが、その進行過程で、淡墨でお使いの場合は、滲みも煤の凝集に合わせてどんどん変化しますので思わぬ表現ができることがあることも事実です。気温の高い夏場は特にご注意下さい。
前にも申しましたが、宿墨は冷蔵庫内で夏場は48時間、冬場は72時間を目安にされたらいかがですか。
A42.墨屋の立場から申しますと、悪いとしか申し上げようがありません。
宿墨とは、固形墨の持つ寿命を水中で数日で終わらせることです。磨り下ろすことにより加水分解は温度にもよりますが、乾燥時とは比較にならないような猛烈なスピ-ドで進み、膠分が急激に減少し、磨墨粒子の凝集も急激に進む状態を宿墨と言います。
言い換えれば短時間の内に水中で疑似古墨化をしていることです。急激な加水分解による膠の力の低下は、大きな凝集体を作り易く、濃く使いますと紙に浸透できず、紙の表面に乗っている状態で墨色も汚く、表具性も極端に悪くなります。
おおげさに言えば消し炭の粉で書いたような品の無い作品になる恐れがあります。宿墨は水中での疑似古墨化と申しましたが、その進行過程で、淡墨でお使いの場合は、滲みも煤の凝集に合わせてどんどん変化しますので思わぬ表現ができることがあることも事実です。
気温の高い夏場は特にご注意下さい。
前にも申しましたが、宿墨は冷蔵庫内で夏場は48時間、冬場は72時間を目安にされたらいかがですか。
A43.液体墨の製法には膠を原料にした物と合成糊剤を原料にした物があります。
表具性が悪いのは膠を原料にした液体墨なのです。
合成糊剤を原料にした液体墨は固形墨と同様表具には何ら問題はありません。
膠は固形墨にとりまして理想的な原料で、現在でも膠に代わる原料は見つかりません。先人の知恵に頭が下がります。
しかし固形墨に最も適した膠の性質が、液体墨には最も不適合となるのです。
膠はコラーゲンを含んだゼラチンを主成分とする蛋白質の一種です。
その水溶液は低温になりますとゼリー状に固まります。これをゲル化すると言います。
動物性蛋白質の一種ですから非常に腐敗し易く、一度腐敗しますと強烈な悪臭を発生します。膠の水溶液は加水分解により炭酸ガスと水に分解されます。
膠を液体墨の原料として使う場合は、このゲル化、加水分解、腐敗を止めなければなりません。
肉類の保存をお考え戴きますと解り易いのですが、蛋白質の保存は乾燥・冷凍・塩浸けするしかありません。
乾燥したのが固形墨ですし、塩浸けしたのが膠を原料にした液体墨なのです。
塩分が多く入りますと乾燥が極端に悪くなります。
書きましても塩分はどこにもいかず、紙に残りますので膠の乾燥皮膜形成が阻害されます。
これが表具性の悪い原因です。
書いた紙が乾燥しても全然縮まない時は、膠の塩浸け液体墨とお考え下さい。
表具しない練習用であれば問題ありませんが、表具する場合は塩分が紙に残りますので絶えず湿気を帯び、梅雨時には作品から膠の腐敗臭が出ることがあります。
膠使用の液体墨は淡墨使用が大切で、薄めることにより塩分濃度も下がり膠本来の透明皮膜がよみがえり表具性も良くなります。
※ここで少し“墨液”と言う言葉についてお話ししたいと思います。
皆様もご存じのように昔から墨汁と言う製品がありました。
表具性が悪いのは膠を原料にした液体墨なのです。
合成糊剤を原料にした液体墨は固形墨と同様表具には何ら問題はありません。
膠は固形墨にとりまして理想的な原料で、現在でも膠に代わる原料は見つかりません。先人の知恵に頭が下がります。
しかし固形墨に最も適した膠の性質が、液体墨には最も不適合となるのです。
膠はコラーゲンを含んだゼラチンを主成分とする蛋白質の一種です。
その水溶液は低温になりますとゼリー状に固まります。これをゲル化すると言います。
動物性蛋白質の一種ですから非常に腐敗し易く、一度腐敗しますと強烈な悪臭を発生します。膠の水溶液は加水分解により炭酸ガスと水に分解されます。
膠を液体墨の原料として使う場合は、このゲル化、加水分解、腐敗を止めなければなりません。
肉類の保存をお考え戴きますと解り易いのですが、蛋白質の保存は乾燥・冷凍・塩浸けするしかありません。
乾燥したのが固形墨ですし、塩浸けしたのが膠を原料にした液体墨なのです。
塩分が多く入りますと乾燥が極端に悪くなります。
書きましても塩分はどこにもいかず、紙に残りますので膠の乾燥皮膜形成が阻害されます。
これが表具性の悪い原因です。
書いた紙が乾燥しても全然縮まない時は、膠の塩浸け液体墨とお考え下さい。
表具しない練習用であれば問題ありませんが、表具する場合は塩分が紙に残りますので絶えず湿気を帯び、梅雨時には作品から膠の腐敗臭が出ることがあります。
膠使用の液体墨は淡墨使用が大切で、薄めることにより塩分濃度も下がり膠本来の透明皮膜がよみがえり表具性も良くなります。
※ここで少し“墨液”と言う言葉についてお話ししたいと思います。
皆様もご存じのように昔から墨汁と言う製品がありました。
膠を原料に多量の塩分を使って造られておりましたので洋紙には向くのですが、和紙には向かず乾燥も遅い表具のできない物でした。
私共はこの欠点を改良して、塩分を一切使わない、乾燥の早い、表具できる液体墨として開発致しました。
これまでの墨汁と区別するために当社の先代が「墨液」と名づけました。
私共はこの欠点を改良して、塩分を一切使わない、乾燥の早い、表具できる液体墨として開発致しました。
これまでの墨汁と区別するために当社の先代が「墨液」と名づけました。
「墨液」とは生まれながらに膠を原料としない合成糊剤を原料とした表具のできる液体墨なのです。
それがいつしか液体墨の総称名となり、墨汁造りの液体墨も墨汁では売れませんから「墨液」と言う名称で販売されるようになり、ご質問の墨液は表具できないということになったのだと思われます。
それがいつしか液体墨の総称名となり、墨汁造りの液体墨も墨汁では売れませんから「墨液」と言う名称で販売されるようになり、ご質問の墨液は表具できないということになったのだと思われます。
当社の「墨液」と言う名称を使う製品群は、合成糊剤を原料とし固形墨と同等以上の表具性を備えた、一切塩分を使用しない液体墨であります。
A44.青墨の煤は茶系の煤に比べ、その粒子の大きさは10~100倍近く大きな物です。
そのために濃く使いますと、粒子は紙の繊維の中に浸透せず、紙の表面に乗っている状態になります。
固形墨も液体墨も水溶性で、水の中で良く煤が分散できるように造られています。
表具するためには、微粒子に分散された煤が紙に良く浸透し、紙の繊維に絡み付き固定されなければなりません。
茶系の細かい煤を使った墨でも、造りが悪くて粒子が凝集して分散していたり、宿墨を使った場合には、煤が紙に浸透せず表具時に散ることがあります。青墨の濃い場合は、大きな粒子がさらに凝集して分散していて汚く見えるものです。
青墨は淡墨でのみ表具できるとお考えください。青墨はできるだけ鋒鋩の細かい硯をお使いになり、より細かく磨り下ろして戴きますと、表具できる濃さも高くなりますし淡墨における透明感も増します。
A45.固形墨も液体墨も使用後洗わなければ筆の寿命を縮めることに変わりはありません。
固形墨の原料は膠ですし、膠使用の液体墨はゲル化を止めるために、そして加水分解を遅らせるために多量の塩分を使います。
合成糊剤製の液体墨は筆を痛める物はありませんが、壊れやすい皮膜の膠と異なり弾力性のある皮膜を作りますので一度乾くと戻すのに時間がかかります。それぞれに腐敗、塩分による脱脂と乾燥の遅さ、弾力ある皮膜が問題となります。
洗い過ぎると筆の腰が抜けると良く言いますが、私の経験では洗わないより洗ったほうが10倍も20倍も長持ちします。
筆の頭に紐が付いているのは、使用後はよく洗い乾燥させるためです。濃墨をお使いの方で使用後筆を洗わない方はありません。
腰を固めたほうが書き易い筆が多いので、そのように言われるのではないかと思います。
A46.固形墨であれ、液体墨であれ、筆は洗わなければいけません。固形墨の原料は膠です。
洗わないということは、筆で宿墨造りをしていることですし、空気中から細菌を拾い培養していることです。
膠の乾燥皮膜は固くて割れ易いものですから、筆の毛に墨が固着しますと、毛が折れ易くなります。
特に夏場は筆についた細菌が磨墨液の中に混入し爆発的に繁殖する危険があります。膠を原料とした液体墨では塩分を多量に使用していますので常に湿気の多い状態になり、毛の脱脂、軸の膨張、抜け毛の多発の原因になります。
合成糊剤を原料とした液体墨は、その乾燥皮膜が柔軟なため一度乾くと膠に比べ水に溶けにくく、無理をすると穂首を折ることがあります。筆の後ろに紐がついているのは使用後はきれいに洗って、よく乾燥して下さいと言うことです。
筆を洗い過ぎると油が抜けて書きにくくなるとか、腰が砕けるとか、時には環境汚染になると言って子供に筆を洗わせない学校もあるように聞いております。墨屋は毎日試験のため何十本もの筆を使います。
それも淡墨から濃墨まで試験しますので筆は完全に墨気が無くなるまで洗わなければなりません。
洗わないより洗った方が何倍も筆の寿命が延び、手になじんだ筆は毛先を使い切っても捨てられないほど愛着がでて参ります。
A47.まず硯の中に残った墨を筆で吸い取り、書き損じの和紙か新聞紙に吸い取らせます。
この時、紙で筆を拭うのでは無くて、丸でも線でも結構ですが普段字を書く要領で吸い取らせます。
次にその筆が吸い取れる水の量(2~3cc)を硯に入れ、硯全体を筆で柔らかく洗い紙に吸い取らせます。
この作業を6回繰り返しますと濃さは1/64となり硯にも筆にも炭素や膠・合成樹脂の残りはわずかになります。
その後コップ半分程度の水で先に筆を振り洗いし、残り水で硯を洗いますと完了です。後は良く水切りし乾燥させることです。
牛乳ビン半分程度の水で完了し廃液も少なく、腰砕けも無くそれ以上に10倍も20倍も筆の寿命が延びるのです。
それだけではありません、この間に逆毛等も抜け、筆が練れてくると言うのでしょうか、新筆では味わえない手になじんだ手放すことのできない道具になります。
時間も10分程度で終わり、毎回気持ちの良い硯と筆を使えるのですから精神面でも良いはずです。
墨屋は毎日数多くの筆を使いますので、しかも淡墨の試験が多いものですから筆洗いが非常に大切ですし、一本の筆を穂先の毛が無くなるまで5年も6年も使います。
学校や塾でもこの筆洗いの方法を子供さん達に教えて戴けましたら、環境問題の実践教育になりますし、道具を大切に使う教育にもなり経済的です。
最近学校で行き過ぎた環境重視のため筆を洗わせずに、ビニールで穂首を包んで持ち帰らせ家庭で洗わせたり、次の授業までそのまま書道箱の中に入れておくなどして、カビが生えたり毛が折れる事故が多くなっています。
ひどいのは次の授業まで穂首が乾かないような液体墨を造れとの依頼も参ります。私はお習字がうまくなる大きな条件は道具を正しく使うことから始まると思いますが、いかがでしょう。
もう一つ面白いことは、この筆洗いの6段階の墨色を適当な和紙に書き、墨の名前・日付を控えておきますとその墨の個性が解ります。
また、年毎に書いておきますと墨の経年変化がつかめ、立派なご自分だけの色見本ができますし新たに墨をお買い求めになる時の目安になり業者へのご要望も具体的になります。
是非お試し戴きたいと思います。
この時、紙で筆を拭うのでは無くて、丸でも線でも結構ですが普段字を書く要領で吸い取らせます。
次にその筆が吸い取れる水の量(2~3cc)を硯に入れ、硯全体を筆で柔らかく洗い紙に吸い取らせます。
この作業を6回繰り返しますと濃さは1/64となり硯にも筆にも炭素や膠・合成樹脂の残りはわずかになります。
その後コップ半分程度の水で先に筆を振り洗いし、残り水で硯を洗いますと完了です。後は良く水切りし乾燥させることです。
牛乳ビン半分程度の水で完了し廃液も少なく、腰砕けも無くそれ以上に10倍も20倍も筆の寿命が延びるのです。
それだけではありません、この間に逆毛等も抜け、筆が練れてくると言うのでしょうか、新筆では味わえない手になじんだ手放すことのできない道具になります。
時間も10分程度で終わり、毎回気持ちの良い硯と筆を使えるのですから精神面でも良いはずです。
墨屋は毎日数多くの筆を使いますので、しかも淡墨の試験が多いものですから筆洗いが非常に大切ですし、一本の筆を穂先の毛が無くなるまで5年も6年も使います。
学校や塾でもこの筆洗いの方法を子供さん達に教えて戴けましたら、環境問題の実践教育になりますし、道具を大切に使う教育にもなり経済的です。
最近学校で行き過ぎた環境重視のため筆を洗わせずに、ビニールで穂首を包んで持ち帰らせ家庭で洗わせたり、次の授業までそのまま書道箱の中に入れておくなどして、カビが生えたり毛が折れる事故が多くなっています。
ひどいのは次の授業まで穂首が乾かないような液体墨を造れとの依頼も参ります。私はお習字がうまくなる大きな条件は道具を正しく使うことから始まると思いますが、いかがでしょう。
もう一つ面白いことは、この筆洗いの6段階の墨色を適当な和紙に書き、墨の名前・日付を控えておきますとその墨の個性が解ります。
また、年毎に書いておきますと墨の経年変化がつかめ、立派なご自分だけの色見本ができますし新たに墨をお買い求めになる時の目安になり業者へのご要望も具体的になります。
是非お試し戴きたいと思います。