墨・書道用品Q&A

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表具のとき磨った墨は散らないが、墨液は散ると聞いていますが。

2016年9月26日 月曜日

液体墨の製法には膠を原料にした物と合成糊剤を原料にした物があります。
表具性が悪いのは膠を原料にした液体墨なのです。
合成糊剤を原料にした液体墨は固形墨と同様表具には何ら問題はありません。
膠は固形墨にとりまして理想的な原料で、現在でも膠に代わる原料は見つかりません。先人の知恵に頭が下がります。

しかし固形墨に最も適した膠の性質が、液体墨には最も不適合となるのです。
膠はコラーゲンを含んだゼラチンを主成分とする蛋白質の一種です。
その水溶液は低温になりますとゼリー状に固まります。これをゲル化すると言います。
動物性蛋白質の一種ですから非常に腐敗し易く、一度腐敗しますと強烈な悪臭を発生します。膠の水溶液は加水分解により炭酸ガスと水に分解されます。

膠を液体墨の原料として使う場合は、このゲル化、加水分解、腐敗を止めなければなりません。
肉類の保存をお考え戴きますと解り易いのですが、蛋白質の保存は乾燥・冷凍・塩浸けするしかありません。
乾燥したのが固形墨ですし、塩浸けしたのが膠を原料にした液体墨なのです。
塩分が多く入りますと乾燥が極端に悪くなります。
書きましても塩分はどこにもいかず、紙に残りますので膠の乾燥皮膜形成が阻害されます。

これが表具性の悪い原因です。
書いた紙が乾燥しても全然縮まない時は、膠の塩浸け液体墨とお考え下さい。
表具しない練習用であれば問題ありませんが、表具する場合は塩分が紙に残りますので絶えず湿気を帯び、梅雨時には作品から膠の腐敗臭が出ることがあります。

膠使用の液体墨は淡墨使用が大切で、薄めることにより塩分濃度も下がり膠本来の透明皮膜がよみがえり表具性も良くなります。

ここで少し墨液と言う言葉についてお話ししたいと思います。
皆様もご存じのように昔から墨汁と言う製品がありました。膠を原料に多量の塩分を使って造られておりましたので洋紙には向くのですが、和紙には向かず乾燥も遅い表具のできない物でした。

私共はこの欠点を改良して、塩分を一切使わない、乾燥の早い、表具できる液体墨として開発致しました。
これまでの墨汁と区別するために当社の先代が「墨液」と名づけました。「墨液」とは生まれながらに膠を原料としない合成糊剤を原料とした表具のできる液体墨なのです。

それがいつしか液体墨の総称名となり、墨汁造りの液体墨も墨汁では売れませんから「墨液」と言う名称で販売されるようになり、ご質問の墨液は表具できないということになったのだと思われます。当社の「墨液」と言う名称を使う製品群は、合成糊剤を原料とし固形墨と同等以上の表具性を備えた、一切塩分を使用しない液体墨であります。

宿墨は良いのですか。悪いのですか。墨色の変化についてはどうですか。

2016年9月26日 月曜日

墨屋の立場から申しますと、悪いとしか申し上げようがありません。宿墨とは、固形墨の持つ寿命を水中で数日で終わらせることです。磨り下ろすことにより加水分解は温度にもよりますが、乾燥時とは比較にならないような猛烈なスピ-ドで進み、膠分が急激に減少し、磨墨粒子の凝集も急激に進む状態を宿墨と言います。言い換えれば短時間の内に水中で疑似古墨化をしていることです。急激な加水分解による膠の力の低下は、大きな凝集体を作り易く、濃く使いますと紙に浸透できず、紙の表面に乗っている状態で墨色も汚く、表具性も極端に悪くなります。おおげさに言えば消し炭の粉で書いたような品の無い作品になる恐れがあります。宿墨は水中での疑似古墨化と申しましたが、その進行過程で、淡墨でお使いの場合は、滲みも煤の凝集に合わせてどんどん変化しますので思わぬ表現ができることがあることも事実です。気温の高い夏場は特にご注意下さい。前にも申しましたが、宿墨は冷蔵庫内で夏場は48時間、冬場は72時間を目安にされたらいかがですか。

使用後の残墨(磨墨液)を容器に入れて冷蔵庫にいれて保存していますが、どうでしょうか。

2016年9月26日 月曜日

墨屋の立場から申しますと、悪いとしか申し上げようがありません。宿墨とは、固形墨の持つ寿命を水中で数日で終わらせることです。磨り下ろすことにより加水分解は温度にもよりますが、乾燥時とは比較にならないような猛烈なスピ-ドで進み、膠分が急激に減少し、磨墨粒子の凝集も急激に進む状態を宿墨と言います。言い換えれば短時間の内に水中で疑似古墨化をしていることです。急激な加水分解による膠の力の低下は、大きな凝集体を作り易く、濃く使いますと紙に浸透できず、紙の表面に乗っている状態で墨色も汚く、表具性も極端に悪くなります。おおげさに言えば消し炭の粉で書いたような品の無い作品になる恐れがあります。宿墨は水中での疑似古墨化と申しましたが、その進行過程で、淡墨でお使いの場合は、滲みも煤の凝集に合わせてどんどん変化しますので思わぬ表現ができることがあることも事実です。気温の高い夏場は特にご注意下さい。前にも申しましたが、宿墨は冷蔵庫内で夏場は48時間、冬場は72時間を目安にされたらいかがですか。

墨が黴びたり腐ったりするのはどうしてですか。その使い道はありますか。

2016年9月26日 月曜日

膠はコラーゲンを含むゼラチンを主成分とするタンパク質の一種であります。

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細菌の寒天培養と同じく膠も細菌にとっては理想的な栄養源なのです。乾燥している時はさほどでもありませんが、水溶液に致しますと空気中から細菌を拾い、一夜の内に爆発的に繁殖します。夏場、気温30前後の湿度の高い所に墨をおきますと、墨が空気中の水分を吸収すると共に細菌が侵入し黴びや腐敗の原因になるのです。墨の製造が冬に行われるのは、空気中の細菌の少ないそして細菌の繁殖しにくい低温が大切だからです。高価な墨を細菌の餌にしてはこれ程悔しいことはありません。ご使用後は、磨り口・側面部の水分を良く拭いて、乾燥した所で保存して戴くことが最も大切です。多少の黴びには抵抗力がありますが腐った墨は使用できません。その墨を使いますと筆に細菌が移ります。そして筆を洗わないで次の墨を使いますと磨墨液に侵入し、この液で書かれた作品が梅雨時分に腐敗臭を発することさえあるのです。黴びの生えた墨をお使いの後は必ず筆を洗い、良く乾燥させておいて下さい。膠とは大変なやっかい物ですが、固形墨にとりましてこれ程良い原料は現在でもありません。

古くなってカスカスの墨を使う方法はありますか。

2016年9月26日 月曜日

墨がカスカスになるのは、膠分が加水分解により炭酸ガスと水になり空気中に放出されたためです。その間に煤はどんどん凝集していますので、磨りましても水の中で分散することはできません。色調も膠気が無くなっていますので、濃墨の場合は艶のない絵の具の黒のような吸収色になります。実はこの墨が日本画で人物の頭髪を書く時に必要なのです。膠気の抜けた墨は簡単に見つかりませんので、普通は墨に胡粉を加え墨の艶を消して使うのですが、やはり白っぽさは目につきます。カスカスの墨に少し膠を足して使いますと思わぬ効果が期待できます。書に使う場合は水に日本画用の膠液を少し混ぜ、この薄い膠液で磨墨して淡墨で書きますと、筆跡には古墨の凝集が見られ、滲みは透明感のある明るいものになりますので、立体感のある思わぬ表現ができることがあります。鋒鋩の細かい硯を使い、力を入れないでトロトロになるまで濃く磨り下ろしてから希釈するのが大切です。水温も20以上あることが必要です。膠液の濃さはその古墨が持つ膠の残量とも関係しますので、色々お試し下さい。

墨が折れたり割れたりすることがあるが、どうすれば良いのか。短くなった墨は捨てるしか方法は無いのか。

2016年9月26日 月曜日

墨が細かく割れた場合は私たちメーカーの責任であります。申し訳ありませんが、返品して戴くようお願い致します。交換させて戴きます。何らかの外からの力が加わり折れた墨や、使い残りの短くなった墨は、そのままでは使いにくい物です。墨自身がもっている膠の接着力を利用して墨同士を接ぎ合わせることができます。その墨で少しドロつく程度の濃墨まで磨り下ろし、両方の接着面に塗り接合しますと両方の膠が溶け出し融合します。接着が悪いと磨墨中に外れる場合がありますのでご注意下さい。簡単な方法としては、墨用接着剤(墨の精アルファ)や、もし無ければ木工ボンドで結構ですからどんどん接いでお使い下さい。磨り口が斜めでは継ぎにくいので水平に面直しをして接着致しますと強度も強く墨磨機にもかかります。接着剤の乾燥皮膜は、水に溶けず磨墨液の上に浮き上がりますので割り箸の先ででも取って下さい。磨墨液には何ら問題はありません。パッチワ-クの様に大きさのまちまちの墨を接ぎ合わせ、これは自分だけのオリジナルの墨だと自慢される方もおられます。

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温度で変わる粘さは、固形墨と液体墨では違いますか。

2016年9月26日 月曜日

温度で変わる粘さの変化は、膠や合成糊剤の種類や使用量で変わります。
固形墨と液体墨の根本的な違いは、膠の持つ特徴であります18以下ではゼリー化して固まる性質にあります。
この現象をゲル化すると言います。

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水温が18以下になりますと極端に粘度増加を起こし、温度が下がるに従ってプリン状に固まってしまいます。冬場の様に水温が低い場合は、硯で磨りましても粒子が硯の鋒鋩で削り落とされた瞬間にゲル化してしまい良好な発墨は望めません。この膠のゲル化を塩分などで止めたり、ゲル化の無い合成糊剤を使用しますと低温による粘度増加はありますが、流動性を失うことはありません。

冬場、野外や寒い室内でのご使用は液体墨の方が適しています。

固形墨の上手な使い方は室温、水温共に20以上にして硯も温め、この条件下でお使いになることです。墨自体の保存から見ますと気温10~18が最も適していますが、お使いになる時は20以上でお使い下さい。

しばらく使っている間に粘ってくるのはどうしてですか。

2016年9月26日 月曜日

固形墨も液体墨も同じですが水分が蒸発するためです。湿度の低い温度の高い部屋では特に早く起こります。
粘さは水分が一割蒸発したら、一割粘さが増すというものではありません

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濃度とは液中に含まれる煤の量。墨の濃さは表現の大切な部分です。
粘度とは液の粘さ。運筆の軽重に関係して、書きやすさにつながります。

一割蒸発すると粘さは2倍にも3倍にもなります。お使いの途中で粘くなった時に加える水の量は、手に感じる量の10%程度のごく少量から調節して下さい。水分蒸発の早さは、固形墨・合成糊剤液体墨・膠使用液体墨の順番になります。固形墨には乾燥防止剤は入っておりません。合成糊剤使用液体墨にはエチレングリコールと言う乾燥防止剤が入っています。この薬は乾燥を少し遅らせるだけで、乾燥しますと紙の上に残らず表具も問題がありません。膠使用の液体墨は塩分の関係で水分の蒸発は遅く、粘度の上昇も一番遅くなります。しかも書いた紙の上に塩分が残り、いつまでも完全に乾きませんので皮膜形成が悪く表具の際は注意が必要です。書いた文字の完全乾燥は線の締まりの上でも表具上も大変重要で、紙が乾いて少し縮むことが大切です。書いた紙が全然縮まないと言うことは、塩分が紙の上に残り完全乾燥ができないと言うことで皮膜形成も完全ではありません。また仮名書きなど少量の磨墨液の水分蒸発の調節はなかなか難しいものです。ある程度多い目に磨って戴くこと、表面積の小さい深さのある墨池を持った硯(写経硯等)を利用し粘度上昇を遅らせて下さい。

固形墨を磨った後、どれくらいが一番良い状態ですか。

2016年9月26日 月曜日

硯の鋒鋩の粗密、水温にも大きく作用されますので一概には言えません。

細かく磨り下ろした場合はさほど増粘しませんが、粗く磨りおろした場合は時間と共に粗い粒子が水中で溶解して増粘します。

勿論墨造りも大きく関係します。

一般的に言えることは、水温が20以上であれば膠の溶解が早いので均一に分散する時間はさほど要りませんが、水温が低いと膠の持つ低温でゲル化するという性質のため、均一にならないばかりか、磨り下ろしの際に固まる場合すらあります。

良い分散液を造るためには硯も水も20以上が必要なのです。

冬場はお湯をお使いになることをお勧めします。

室温が20以下であれば40~50のお湯を硯に注いで磨って戴きますと良く分散致します。

分散状態を知るためには淡墨にして筆跡の濁りを見て下さい。

練りの悪い墨や、膠の力の落ちた古墨は墨自体の問題ですので時間をおいても分散の改良にはなりません。

淡墨に透明感が感じられたらきれいに分散しています。

ご注意戴きたいのは時間をおけばおくほど良いと言うものではありません。

夏場などに長い時間をおきますと、加水分解により膠の力が急激に無くなり粒子の凝集が始まると宿墨状態になりますし、腐敗の心配もでて参ります。

宿墨の面白みを求められる場合は別ですが、磨墨液は磨ったその日中にお使いになるのがベターです。

油煙墨と松煙墨では硯を代えた方が良いのですか。

2016年9月26日 月曜日

松煙墨でも油煙墨に近い粒子の細かい煤を使った物がありますが、大変高価で現在は手に入れることは難しくなりました。

現在手に入る松煙墨の粒子は油煙墨の粒子より粗く、油煙墨に比べ色調も吸収色です。

また粒子は単体で分散するのではなく凝集体で分散しますので、細かい鋒鋩の硯で磨る方がよりきれいになります。

作品制作上での効果を考えますと一概には言えませんが、固形墨の分散液は硯の鋒鋩が作り出す分散液でもありますので、松煙墨にはより細かい鋒鋩の硯が良く、淡墨時の透明感も冴えると思います。

作品の効果として少し距離を置いて見る大作の場合は、松煙墨の吸収色を利用して、少し粗目の硯をお使いになるのも面白いかと思います。