墨・書道用品Q&A

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松煙墨は墨の状態で青くなるのですか。紙に書いた状態では青くならないのですか。

2016年9月26日 月曜日

これまでにもお話ししてきましたように、松煙墨は最初茶墨でありましても、長い年月の内に青墨化して参ります。

紙に書いた状態でも青墨化したものを、私は過去に見ております。

それはお経の巻物でしたが、書かれている内容、書かれた時代はその時ご説明を受けたのですが、今は記憶に無く、ただ巻物の初めの方が青墨化していて、巻物を全部見ますと、後ろの方は明らかに茶系の松煙墨でした。

あまりの見事な変化に、ただただ感動致しまして今でも鮮明に覚えています。

松煙墨は紙に書いた状態でも青墨化致します。

もう一つ例を挙げておきます。

木の看板に墨でお書きになる場合は必ず油煙墨をお使いになることです。

油煙墨は木に浸透して長い年月風雨にさらされ木自体が痩せてきても、文字は浮き上がって残りますが、松煙墨で書きますと、風雨などにさらされ急激に青墨化し、最後には文字が剥離してしまいます。

茶墨とか青墨とか墨にも色合いがありますが、煤の原料が違うのでしょうか。

2016年9月26日 月曜日

煤の色合いは燃やす原料や燃やし方によって異なります。

色合いの基準は、菜種油の芯焚き油煙墨の淡墨の色を茶系として、これより赤く感じるものを赤系、青く感じるものを紫紺系、青系に分類しています。

芯焚き植物性油煙は、油の種類により多少の色目は変わりますが大体において茶系です。

芯焚き鉱物性油煙は、その油の燃焼温度の違いにより茶系から紫紺系まであります。

松煙のように木の樹脂を木片もろとも燃やす直火焚きでは、酸素の供給量の加減、木の乾燥状態、焚き窯(装置)の違いにより赤系から青系まであります。

また直火焚きで鉱物性固形物、鉱物性油を焚いても赤系から青系まで採取することができます。

松の木を直火焚きしたのが本来の松煙ですが、直火焚きで採取した煤の総称まで松煙と称するようになりましたので、当社では本来の松を焚いた物を「純植物性松煙」、鉱物性原料を直火焚きした物を「鉱物性松煙」と呼んでいます。

この焚き方による煤の性質が良く似ているためです。

青墨の煤はこの直火焚き法の中から生まれます。

青系の煤の粒子は赤系、茶系の粒子の10倍以上の大きなものです。

赤系、茶系の粒子は一般的には細かい粒子の集まり、紫紺系は細かい粒子と粗い粒子の混合体、青系は粗い粒子の集まりと考えて戴ければ良いと思います。

墨を枯れさせるには、フイルム包装を外した方が良いのですか。

2016年9月26日 月曜日

墨は湿度に最も弱く、また、余り急激に乾燥し過ぎることも良くありません。

特に新墨の時の過度の乾燥は、割れの原因になるのです。

販売店の陳列ケースの中は熱源もあり、特に湿度の少ない環境になっています。

その乾き切った墨を磨りますと水分が墨の表面に回り膨張します。

しかも緻密に造られた墨ほど内部に水分を取り込みにくく、墨の表面と内部の水分による膨張の差が大きくなり、割れの原因になるのです。

この現象を抑えるために、流通の過程だけフイルム包装をしています。

お買い上げ後はフイルムを外して戴いて結構ですが、墨がご家庭の環境に慣れるまで少し時間をおいて戴ければ有り難いのですが。

墨の枯れには適度の湿気も必要なのです。

ただフイルム包装をしていましても、墨は販売店で過度に乾燥していますから過度な湿気は禁物です。

墨は古くなるほど軽くなるというのはどういう意味ですか。物理的に軽くなるのですか。

2016年9月26日 月曜日

.墨は「煤と膠と水」で造られています。新墨の場合、その体内に水分が20%近く含まれています。保存する環境や、夏と冬では異なりますが、これも徐々に少なくなり、製造後3~5年経てば一定してきます。

墨が枯れ長い年月の内に軽くなるというのは、膠が墨に含まれる水分により徐々に加水分解され、炭酸ガスと水になり空気中に放出され、膠の重さが減っていくためです。

墨には膠が40%程度含まれていますから、理論上は、全部の膠が分解して無くなり墨としての生命を終えた時には、40%軽くなると言うことです。

古墨は製造よりどのくらいの年数を経たものをいうのですか。

2016年9月26日 月曜日

大変難しいご質問です。墨を造る私達は、新墨の期間を3~5年と考えています。 

これは墨を造る時に必要な膠の量が、この期間に加水分解され書く時に必要な膠の量に近づいてきますし、墨の持つ水分量も安定して、加水分解もこれ以後はゆっくりしだものになるからです。

墨の寿命は墨がどのような環境の下に保存されるかにかかっています。

湿度100%・ 気温30で放置しますと1ヵ月ももちません。

温度、湿度の比較的低い条件の良い所(土蔵など)で保存致しますと数百年の寿命をもちます。

墨は我が身を磨り減らしてその役目を果たす物ですが、一方墨自体は湿度に大変弱い物なのです。

同じ日に製造した百丁の同質の墨が、未使用のまま10年後には、それぞれの環境の影響を受け完全に駄墨になり果てた物から、昨日造った物かと思える物まで百種類の異なった墨に変身するのです。

現在、日本に保存されている明代や清代の墨の中に、完全に膠の生きている見事な墨が残っています。

これは大名の道具飾りなどとして、水を見ること無しに最高の保存環境の中で伝来して来たものです。

墨の枯れは、言い換えれば、膠という蛋白質の自然界における分解の過程なのです。

墨造りの独断と偏見で申しますと、湿度の少ない机の引き出しなどに桐箱などに入れて保存された状態で、最も書き易くなる製造後10~15年経過した墨から古墨と言っていいのではないかと思います。

墨造りから考えます古墨とは、現在使用に耐える墨であり歴史的、骨董的価値ではありません。

墨は古いほど良いと言われますがどうしてですか。新墨と古墨の違いは。

2016年9月26日 月曜日

一番大きい原因は墨造りにあります。煤を練って固める為に必要とする膠の量が、書く時に必要とする膠の量より多いと言うことです。

新墨は粘るとか筆が重いとか感じられるのはこのためです。

膠はコラーゲンを含むゼラチンを主成分とする蛋白質の一種です。

膠は水の中で高分子から低分子へと変化していきます。これを加水分解と言います。 

また、膠独特の性質として気温が18以下になりますとゼリー伏に固まり、これを「ゲル化」と言います。

墨を冬場に造るのは、膠の腐敗を抑えゲル化を利用するためです。

新墨はその体内に20%程度の水分を保持しており、その水分で膠の加水分解が起こります。

気湿が18以下になりますと膠のゲル化が起こり、体内の水分を排徐し、20以上になりますと膠のゲル化が止まり、外部から水分を取り入れます。 

この働きを毎年繰り返し、徐々に体内の水分量を下げていきます。

新墨から3~5年が、加水分解による膠の粘度低下の一番大きい時なのです。 

この頃を過ぎますと書く時に必要な膠の量に近づいてきます。 

さらに年数を経過しますと加水分解が進み、膠の力が低下し、煤を分散させる力も弱まりますので、筆跡がしっかり残り透明感のある滲みに変化します。

勿論、運筆も軽やかて濃墨でも書き易くなります。言い換えれば墨の枯れとは、白然界における蛋白質(膠)の分解の過程なのです。 

このことでもお解りのように、墨は湿気の多い所で保管すると寿命は極端に短くなりますし、時には腐敗菌が繁殖し数日で分解することすらあります。

同じ条件の下に生まれた墨も、それ以後の環境で大さく変化しますので、必ずしも古い墨はすべて良いとは言い切れません。

磨墨後、磨り口側面部を拭き、湿気の少ない所に保管することが大事なのです。

良い条件で保管された墨は100年200年の寿命をもっています。

勿論、墨造りも大切でよく練れた緻密な墨でなければなりません。

墨の寿命について教えて下さい。

2016年9月26日 月曜日

使用する膠の強・弱(分子量の大・小)により異なります。

弱い(分子量の小さい)膠程安定な物ですが、煤を練り上げるのに一定の粘度が必要なため、膠の使用量が多くなり、その結果黒味が弱くなります。

強い膠を少なめに用いた場合は、黒味が強くなりますが墨の枯れが早くなります。

当社では一般の和墨造りでは、黒味を強調するため少し強い膠を用い、大和雅墨など淡墨の美しさを強調する場合は、弱い膠を少し多く用いています。

昭和30年代以後は、墨造り技術が進み緻密な造りになっておりますので、和墨造りであっても、人の寿命以上の使用に耐える寿命をもっておりますし、淡墨用造りでは、その2~3倍の寿命があるものとこれまでの経験から推察しております。

ただ、墨の寿命も生まれてからの環境によって大きく変化します。

湿気の多い所や冷暖房機の風が直接当たる所は墨にとって一大脅威です。

枯れるまでに腐敗したり割れてしまっては何にもなりません。

使用後は水気をふき取り箱にいれて保管されることをお勧めします。

墨の経年変化とはどういうことでしょう。

2016年9月26日 月曜日

墨に用いる膠は、動物(主に牛)のコーラゲンという物質を含んでいる、主に皮の部分から取り出したゼラチンを主成分とする蛋白質の一種です。墨を練り上げるのに必要な膠の量は、書く時の膠の必要量よりも少し多いものです。

このために新墨は少し粘るように感じますが、年月を経ると共に加水分解等により徐々に粘度が低下し、書く上で暢びと分散・接着力のバランスのとれた良い状態へと変化します。

そして最後にはその分散・接着力を失い、墨としての寿命を終えることになります。

墨が枯れると言うのは、言い換えれば蛋白質の自然界における分解の過程なのです

液体墨の寿命はどのくらいですか。

2016年9月26日 月曜日

膠を原料にした液体墨は、塩分で加水分解を抑えていますが、完全に止めることはできません。

2年程度を目安にしていますが、保存環境に左右されます。中には30年近く長生きした物もありました。

凍結を繰り返しますと、品質は早く劣化致します。条幅用No1~3、この製品群は、塩分が含まれておりますので通常では凍結の恐れはありません。

合成糊剤を原料とした液体墨は、加水分解されにくいので5年以上の寿命があります。

ただ凍結防止剤は含まれておりますが、過度の低温(マイナス20程度)で凍結致しますと極端に劣化致します。

冷凍庫などにいれて凍結させないで下さい。

筆の締まりの良い墨と悪い墨がありますがどうしてですか。

2016年9月26日 月曜日

墨は「煤と膠」を練り合わせ、固めて乾かしたもので、製法的には殆ど完成されています。

筆のバランスのとれた締まり具合いは、平均的な配合から申しますと、練りと均一な膠の溶解技術に原因があります。

複数の性質の違う膠を、如何に均一に溶解するかが墨造りの最も大切なことなのです。

見かけの溶解と真の溶解には大きな差が出て参ります。

言葉で表現することは難しいのですが、どぼどぼした溶解液と油のように滑らかな流れの良い溶解液とでは、煤と練り合わせる時に影響を与えます。

締まりの悪い墨は、暢びや紙への浸透性も悪く、淡墨の時には濁りが出て参ります。

膠の溶解が不均一で、煤との練りに手抜きがありますと最悪の墨となります。

ただ原料の膠、煤とも毎回同じ品質とは言い切れませんので、締まり具合いに微妙な誤差がでて参ります。

墨造りに従事する私達にとりまして、最も神経を使う点がご質問の点であります。

筆の締まり具合のバランスは、お使いになる皆様のお好みにもよりますが、締まり過ぎると筆さばきに難がでて参ります。

出来の良い墨は、新墨のうちは締まりが強いものですから筆さばきに重さを感じますが、製造後3~5年経過してお使い戴ければ、この重さも消え使い易くなります。

この原因は墨造りに必要な膠の量と書く時に必要な膠の量に差があり、造るための量が少し多いことに起因します。

この時の新墨は、20%近くの水分を内蔵しておりまして、3~5年の間に加水分解により余分の膠が分解して、書く時に適した膠量になるためです。

詳しいことは「墨の枯れ」Q18の項ご参照下さい。