墨・書道用品Q&A

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墨と水との関係についてはどうでしょうか。

2016年9月26日 月曜日

墨を磨る水は「木の葉にたまった朝露」が良いと聞かれたことがあると思います。

墨には軟水(特に硬度20~60)が良いことは、カーボンの分散・暢びがよく特に滑らかな書き味が得られる点で事実でありますし、幸いなことに日本は軟水域であります。

一般的には硬度が高くなりますと運筆に硬さと重さが感じられ、分散・暢びにも影響を与えます。

しかし硬水がすべて悪いのかと言いますと、その水の組成により一概に言えません。

水の硬度は一般的に100未満を軟水、100~300を中硬水、300以上を硬水と分類されているようですが、現代ほど世界の数多くの水(ミネラルウオーター)を経験できる時代はありません。

硬度20程度から硬度1500程度まで販売されていますので、一度お試しになっては如何ですか。

固形墨と液体墨は混ぜても良いのですか。

2016年9月26日 月曜日

固形墨は膠で造ります。液体墨は膠で造った物と、合成糊材で造った物の2種類あります。

膠同士の製品は混ぜることができますが、膠製品と合成糊材の製品は混ぜることができません。

造る立場から申しますと、混ぜ合わせて戴かないのがベターですが、お使い戴く皆様がご自分だけの色調、粘り(筆の抵抗)をお求めになりますのもまた自然の流れと思います。

ご注意申し上げたいのは、まず少量の混合で合うかどうか試して戴いて、淡墨で変な滲みが出ないか、煤が凝集しないかを調べて下さい。

また、一見大丈夫に見えましても、時間の経過と共に変化が現れる場合がよくありますので混合したものはできるだけ早くお使い戴くことです。

長時間おかれることは良くありません。特に気温の高い時期にはご注意下さい。

冷蔵庫に入れておられることがありますが防腐に少し効果があるだけで、加水分解は止まりませんし、表具性が極端に悪くなります。

液体墨に固形墨を磨り合わせる場合は、組成が丸っきり違いますので、濃墨の場合などに凝集沈殿を起こすことがあります。

液体は液体同士混ぜて下さい。ただ液体墨はメーカーによりその組成は大きく違いますので、始めは少量でお試し下さい。

油煙墨と松煙墨を混ぜるとどうなるのか。

2016年9月26日 月曜日

煙墨も松煙墨も共に膠で固めていますので、混ぜ合わせても問題はありません。

原料の性質から、普通濃度以上の場合は一般的に油煙墨の黒は反射色、松煙墨の黒は吸収色ですので、混ぜ合わすことによりその間の調子をとることができます。

淡墨における美しさ、透明感は松煙墨が勝っておりますので、松煙墨の色調の異なるもの同士を混ぜる方が良く、油煙墨との混ぜ合わせは淡墨においては少し濁るように思います。

何分これはお使い戴く皆様方のお好みの問題であります。

はっきり言えますことは煤の粒子は松煙墨より油煙墨の方が細かい物ですから、松煙墨に油煙墨を磨り込みますと流動性が良くなり書き易くなります。

日本と中国の墨を磨り合わせるのは本当に良い方法でしょうか。

2016年9月26日 月曜日

日本の固形墨も中国の固形墨も原料は共に膠ですから、磨り合わせても問題はありません。

ただ現在の中国の墨は膠が極端に強くなっています。墨専用の膠を造るところが急激な都市化の流れに押され廃業を余儀なくされ完全に無くなりました。

接着用の強い膠を、無理に長い時間炊き詰めて粘度を落とし造っているのですが、流れの悪さは避けられません。

中国の墨も文化大革命以前の物であれば、充分使い物になりますので磨り合わせても面白いかと思います。

古墨と新墨を磨り合わせて、芯と滲みのバランスを変えたり、個性の違う墨を磨り合わせて、ご自分だけの墨色を造ることができるのは固形墨だけですのでお試し下さい。

10年ほど前の青松煙と今のでは墨色が大きく違うのはなぜか。

2016年9月26日 月曜日

本来青墨は煤自体の青さを表現するものでありますが、原料のロット振れが大きく色調が一定致しません。

その色調を補正するために、ごく少量の天然藍を用いて参りました。

また藍で補正した物は、その旨を墨の説明書に明記して参りました。

いつ頃からか青墨は絵の具の青のような色と考えられるのか、もっと青く、もっと青くとのご希望があり墨屋もどんどん藍を加えて青さの競争になってしまいました。

現在は筆が青く染まるほどの化学染料を含んだ青墨が一般的となり、純粋な青墨用松煙とは似ても似つかない色になったのです。

また染料は煤に比べて極端に耐光性が弱く、作品その物が変色する危険性があります。

当社では、天然の藍を墨(彩墨 藍)にした物がありますので、青みを強調されたい方はお好みの色まで磨り込まれたら良いと思います。

当社の青松煙始め多くの青墨は、これまでの青さを抑え、原料本来の持つ青さを大切に平成10年から製造を切り変えております。

松煙墨は墨の状態で青くなるのですか。紙に書いた状態では青くならないのですか。

2016年9月26日 月曜日

これまでにもお話ししてきましたように、松煙墨は最初茶墨でありましても、長い年月の内に青墨化して参ります。

紙に書いた状態でも青墨化したものを、私は過去に見ております。

それはお経の巻物でしたが、書かれている内容、書かれた時代はその時ご説明を受けたのですが、今は記憶に無く、ただ巻物の初めの方が青墨化していて、巻物を全部見ますと、後ろの方は明らかに茶系の松煙墨でした。

あまりの見事な変化に、ただただ感動致しまして今でも鮮明に覚えています。

松煙墨は紙に書いた状態でも青墨化致します。

もう一つ例を挙げておきます。

木の看板に墨でお書きになる場合は必ず油煙墨をお使いになることです。

油煙墨は木に浸透して長い年月風雨にさらされ木自体が痩せてきても、文字は浮き上がって残りますが、松煙墨で書きますと、風雨などにさらされ急激に青墨化し、最後には文字が剥離してしまいます。

茶墨とか青墨とか墨にも色合いがありますが、煤の原料が違うのでしょうか。

2016年9月26日 月曜日

煤の色合いは燃やす原料や燃やし方によって異なります。

色合いの基準は、菜種油の芯焚き油煙墨の淡墨の色を茶系として、これより赤く感じるものを赤系、青く感じるものを紫紺系、青系に分類しています。

芯焚き植物性油煙は、油の種類により多少の色目は変わりますが大体において茶系です。

芯焚き鉱物性油煙は、その油の燃焼温度の違いにより茶系から紫紺系まであります。

松煙のように木の樹脂を木片もろとも燃やす直火焚きでは、酸素の供給量の加減、木の乾燥状態、焚き窯(装置)の違いにより赤系から青系まであります。

また直火焚きで鉱物性固形物、鉱物性油を焚いても赤系から青系まで採取することができます。

松の木を直火焚きしたのが本来の松煙ですが、直火焚きで採取した煤の総称まで松煙と称するようになりましたので、当社では本来の松を焚いた物を「純植物性松煙」、鉱物性原料を直火焚きした物を「鉱物性松煙」と呼んでいます。

この焚き方による煤の性質が良く似ているためです。

青墨の煤はこの直火焚き法の中から生まれます。

青系の煤の粒子は赤系、茶系の粒子の10倍以上の大きなものです。

赤系、茶系の粒子は一般的には細かい粒子の集まり、紫紺系は細かい粒子と粗い粒子の混合体、青系は粗い粒子の集まりと考えて戴ければ良いと思います。

墨を枯れさせるには、フイルム包装を外した方が良いのですか。

2016年9月26日 月曜日

墨は湿度に最も弱く、また、余り急激に乾燥し過ぎることも良くありません。

特に新墨の時の過度の乾燥は、割れの原因になるのです。

販売店の陳列ケースの中は熱源もあり、特に湿度の少ない環境になっています。

その乾き切った墨を磨りますと水分が墨の表面に回り膨張します。

しかも緻密に造られた墨ほど内部に水分を取り込みにくく、墨の表面と内部の水分による膨張の差が大きくなり、割れの原因になるのです。

この現象を抑えるために、流通の過程だけフイルム包装をしています。

お買い上げ後はフイルムを外して戴いて結構ですが、墨がご家庭の環境に慣れるまで少し時間をおいて戴ければ有り難いのですが。

墨の枯れには適度の湿気も必要なのです。

ただフイルム包装をしていましても、墨は販売店で過度に乾燥していますから過度な湿気は禁物です。

墨は古くなるほど軽くなるというのはどういう意味ですか。物理的に軽くなるのですか。

2016年9月26日 月曜日

.墨は「煤と膠と水」で造られています。新墨の場合、その体内に水分が20%近く含まれています。保存する環境や、夏と冬では異なりますが、これも徐々に少なくなり、製造後3~5年経てば一定してきます。

墨が枯れ長い年月の内に軽くなるというのは、膠が墨に含まれる水分により徐々に加水分解され、炭酸ガスと水になり空気中に放出され、膠の重さが減っていくためです。

墨には膠が40%程度含まれていますから、理論上は、全部の膠が分解して無くなり墨としての生命を終えた時には、40%軽くなると言うことです。

古墨は製造よりどのくらいの年数を経たものをいうのですか。

2016年9月26日 月曜日

大変難しいご質問です。墨を造る私達は、新墨の期間を3~5年と考えています。 

これは墨を造る時に必要な膠の量が、この期間に加水分解され書く時に必要な膠の量に近づいてきますし、墨の持つ水分量も安定して、加水分解もこれ以後はゆっくりしだものになるからです。

墨の寿命は墨がどのような環境の下に保存されるかにかかっています。

湿度100%・ 気温30で放置しますと1ヵ月ももちません。

温度、湿度の比較的低い条件の良い所(土蔵など)で保存致しますと数百年の寿命をもちます。

墨は我が身を磨り減らしてその役目を果たす物ですが、一方墨自体は湿度に大変弱い物なのです。

同じ日に製造した百丁の同質の墨が、未使用のまま10年後には、それぞれの環境の影響を受け完全に駄墨になり果てた物から、昨日造った物かと思える物まで百種類の異なった墨に変身するのです。

現在、日本に保存されている明代や清代の墨の中に、完全に膠の生きている見事な墨が残っています。

これは大名の道具飾りなどとして、水を見ること無しに最高の保存環境の中で伝来して来たものです。

墨の枯れは、言い換えれば、膠という蛋白質の自然界における分解の過程なのです。

墨造りの独断と偏見で申しますと、湿度の少ない机の引き出しなどに桐箱などに入れて保存された状態で、最も書き易くなる製造後10~15年経過した墨から古墨と言っていいのではないかと思います。

墨造りから考えます古墨とは、現在使用に耐える墨であり歴史的、骨董的価値ではありません。