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墨の磨り方について(美しい淡墨の出し方)。
2016年9月26日 月曜日1.淡墨の場合、最初濃く磨ってあとで薄めるのが良いと言われるが、最初から一定量を薄 く磨ったものとの違いは。
硯の鋒鋩により芯と滲みのバランスは大きく変わります。
細かい鋒鋩の硯も比較的粗い鋒鋩の硯も、その特性を生かすことにより色々な淡墨を楽しめます。
大切な点は墨磨りにあります。淡墨使用であっても墨はトロトロになるまで濃く磨って下さい。
濃く磨ることは、硯の鋒鋩における分散だけではなく、磨墨液が流動しあうことにより、より細かく分散するためです。
刃物を研ぐ時研ぎ汁を流し過ぎるとうまく刃物は研げません。
研ぎ汁が流動することにより、より冴えた研ぎができるのと原理は同じです。
墨は濃く磨り下ろして、必要な濃度まで薄めることが大切です。
磨る時の力の入れ具合いも大切で、力を入れ過ぎると粗くなります。
芯と滲みのバランス等表現の面白さを考えてお試し下さい。多量の水の中に少し磨り下ろした淡墨は、その硯の鋒鋩が作り出す分散で、硯の性質がはっきり現れますが少し硬いように思います。
濃く磨ることは磨墨液の粒子分布の幅を広げ、淡墨における冴え・立体感を表現するために大切なことと考えます。
2.墨の磨り方で墨色が違うと聞きましたがどうしてですか。
固形墨の墨色は硯の持つ鋒鋩の分散液なのです。磨り下ろした煤の大きさで色は異なって見えます。
淡墨にすれば良く解りますが、細かく磨墨した分散液は、筆跡と滲みの濃さの差が少なく明るい色調となりますが、粗く磨墨した分散液は、筆跡と滲みの差がはっきりした濁りのある暗い色調になります。
濃く使いますと細かい時は反射色であるものが粗い時には吸収色になります。
これは磨り下ろした煤の粒子の集合体の大小に起因致します。
書き味では細かく磨りますと流れが良くなり暢びも良くなりますが、粗く磨りますと暢びが悪くなり筆が重くなります。
一つの墨で硯を変えることにより、また、力の入れ加減を変えて磨墨することにより、色々の色調を表現できるのは、固形墨だけの面白みでもあります。
磨墨時の水温による墨色の変化について。
2016年9月26日 月曜日膠の特性として水温が18℃以下になりますと増粘しゲル化します。
冬場の暖かい部屋の中でも硯が冷えていたり水温が低い場合は、磨り下ろした墨がそのまま分散しないで水中でゲル化してしまい発墨いたしません。
冬の午前中は墨の下りも悪く発墨も悪いが、午後には良くなるという経験のお持ちの方も多いとお思います。
分散の良い磨墨液を得るためには、水温は必ず20℃以上が必要なのです。冬場などは部屋を20℃以上に保ち、硯に40~50℃のお湯を注いで磨って戴きますと良い磨墨液が得られます。
冬の野外でのご使用は液体墨の方が向いています。
10℃前後の低い水温で磨りますと疑似古墨調の分散になりますので、淡墨では思わぬ表現ができることもあります。
水温を変えて色々お試し戴くのも面白いと思います。
墨と水との関係についてはどうでしょうか。
2016年9月26日 月曜日墨を磨る水は「木の葉にたまった朝露」が良いと聞かれたことがあると思います。
墨には軟水(特に硬度20~60)が良いことは、カーボンの分散・暢びがよく特に滑らかな書き味が得られる点で事実でありますし、幸いなことに日本は軟水域であります。
一般的には硬度が高くなりますと運筆に硬さと重さが感じられ、分散・暢びにも影響を与えます。
しかし硬水がすべて悪いのかと言いますと、その水の組成により一概に言えません。
水の硬度は一般的に100未満を軟水、100~300を中硬水、300以上を硬水と分類されているようですが、現代ほど世界の数多くの水(ミネラルウオーター)を経験できる時代はありません。
硬度20程度から硬度1500程度まで販売されていますので、一度お試しになっては如何ですか。
固形墨と液体墨は混ぜても良いのですか。
2016年9月26日 月曜日固形墨は膠で造ります。液体墨は膠で造った物と、合成糊材で造った物の2種類あります。
膠同士の製品は混ぜることができますが、膠製品と合成糊材の製品は混ぜることができません。
造る立場から申しますと、混ぜ合わせて戴かないのがベターですが、お使い戴く皆様がご自分だけの色調、粘り(筆の抵抗)をお求めになりますのもまた自然の流れと思います。
ご注意申し上げたいのは、まず少量の混合で合うかどうか試して戴いて、淡墨で変な滲みが出ないか、煤が凝集しないかを調べて下さい。
また、一見大丈夫に見えましても、時間の経過と共に変化が現れる場合がよくありますので混合したものはできるだけ早くお使い戴くことです。
長時間おかれることは良くありません。特に気温の高い時期にはご注意下さい。
冷蔵庫に入れておられることがありますが防腐に少し効果があるだけで、加水分解は止まりませんし、表具性が極端に悪くなります。
※液体墨に固形墨を磨り合わせる場合は、組成が丸っきり違いますので、濃墨の場合などに凝集沈殿を起こすことがあります。
液体は液体同士混ぜて下さい。ただ液体墨はメーカーによりその組成は大きく違いますので、始めは少量でお試し下さい。
油煙墨と松煙墨を混ぜるとどうなるのか。
2016年9月26日 月曜日煙墨も松煙墨も共に膠で固めていますので、混ぜ合わせても問題はありません。
原料の性質から、普通濃度以上の場合は一般的に油煙墨の黒は反射色、松煙墨の黒は吸収色ですので、混ぜ合わすことによりその間の調子をとることができます。
淡墨における美しさ、透明感は松煙墨が勝っておりますので、松煙墨の色調の異なるもの同士を混ぜる方が良く、油煙墨との混ぜ合わせは淡墨においては少し濁るように思います。
何分これはお使い戴く皆様方のお好みの問題であります。
はっきり言えますことは煤の粒子は松煙墨より油煙墨の方が細かい物ですから、松煙墨に油煙墨を磨り込みますと流動性が良くなり書き易くなります。
日本と中国の墨を磨り合わせるのは本当に良い方法でしょうか。
2016年9月26日 月曜日日本の固形墨も中国の固形墨も原料は共に膠ですから、磨り合わせても問題はありません。
ただ現在の中国の墨は膠が極端に強くなっています。墨専用の膠を造るところが急激な都市化の流れに押され廃業を余儀なくされ完全に無くなりました。
接着用の強い膠を、無理に長い時間炊き詰めて粘度を落とし造っているのですが、流れの悪さは避けられません。
中国の墨も文化大革命以前の物であれば、充分使い物になりますので磨り合わせても面白いかと思います。
古墨と新墨を磨り合わせて、芯と滲みのバランスを変えたり、個性の違う墨を磨り合わせて、ご自分だけの墨色を造ることができるのは固形墨だけですのでお試し下さい。
10年ほど前の青松煙と今のでは墨色が大きく違うのはなぜか。
2016年9月26日 月曜日本来青墨は煤自体の青さを表現するものでありますが、原料のロット振れが大きく色調が一定致しません。
その色調を補正するために、ごく少量の天然藍を用いて参りました。
また藍で補正した物は、その旨を墨の説明書に明記して参りました。
いつ頃からか青墨は絵の具の青のような色と考えられるのか、もっと青く、もっと青くとのご希望があり墨屋もどんどん藍を加えて青さの競争になってしまいました。
現在は筆が青く染まるほどの化学染料を含んだ青墨が一般的となり、純粋な青墨用松煙とは似ても似つかない色になったのです。
また染料は煤に比べて極端に耐光性が弱く、作品その物が変色する危険性があります。
当社では、天然の藍を墨(彩墨 藍)にした物がありますので、青みを強調されたい方はお好みの色まで磨り込まれたら良いと思います。
当社の青松煙始め多くの青墨は、これまでの青さを抑え、原料本来の持つ青さを大切に平成10年から製造を切り変えております。
松煙墨は墨の状態で青くなるのですか。紙に書いた状態では青くならないのですか。
2016年9月26日 月曜日これまでにもお話ししてきましたように、松煙墨は最初茶墨でありましても、長い年月の内に青墨化して参ります。
紙に書いた状態でも青墨化したものを、私は過去に見ております。
それはお経の巻物でしたが、書かれている内容、書かれた時代はその時ご説明を受けたのですが、今は記憶に無く、ただ巻物の初めの方が青墨化していて、巻物を全部見ますと、後ろの方は明らかに茶系の松煙墨でした。
あまりの見事な変化に、ただただ感動致しまして今でも鮮明に覚えています。
松煙墨は紙に書いた状態でも青墨化致します。
もう一つ例を挙げておきます。
木の看板に墨でお書きになる場合は必ず油煙墨をお使いになることです。
油煙墨は木に浸透して長い年月風雨にさらされ木自体が痩せてきても、文字は浮き上がって残りますが、松煙墨で書きますと、風雨などにさらされ急激に青墨化し、最後には文字が剥離してしまいます。
茶墨とか青墨とか墨にも色合いがありますが、煤の原料が違うのでしょうか。
2016年9月26日 月曜日煤の色合いは燃やす原料や燃やし方によって異なります。
色合いの基準は、菜種油の芯焚き油煙墨の淡墨の色を茶系として、これより赤く感じるものを赤系、青く感じるものを紫紺系、青系に分類しています。
芯焚き植物性油煙は、油の種類により多少の色目は変わりますが大体において茶系です。
芯焚き鉱物性油煙は、その油の燃焼温度の違いにより茶系から紫紺系まであります。
松煙のように木の樹脂を木片もろとも燃やす直火焚きでは、酸素の供給量の加減、木の乾燥状態、焚き窯(装置)の違いにより赤系から青系まであります。
また直火焚きで鉱物性固形物、鉱物性油を焚いても赤系から青系まで採取することができます。
松の木を直火焚きしたのが本来の松煙ですが、直火焚きで採取した煤の総称まで松煙と称するようになりましたので、当社では本来の松を焚いた物を「純植物性松煙」、鉱物性原料を直火焚きした物を「鉱物性松煙」と呼んでいます。
この焚き方による煤の性質が良く似ているためです。
青墨の煤はこの直火焚き法の中から生まれます。
青系の煤の粒子は赤系、茶系の粒子の10倍以上の大きなものです。
赤系、茶系の粒子は一般的には細かい粒子の集まり、紫紺系は細かい粒子と粗い粒子の混合体、青系は粗い粒子の集まりと考えて戴ければ良いと思います。
墨を枯れさせるには、フイルム包装を外した方が良いのですか。
2016年9月26日 月曜日墨は湿度に最も弱く、また、余り急激に乾燥し過ぎることも良くありません。
特に新墨の時の過度の乾燥は、割れの原因になるのです。
販売店の陳列ケースの中は熱源もあり、特に湿度の少ない環境になっています。
その乾き切った墨を磨りますと水分が墨の表面に回り膨張します。
しかも緻密に造られた墨ほど内部に水分を取り込みにくく、墨の表面と内部の水分による膨張の差が大きくなり、割れの原因になるのです。
この現象を抑えるために、流通の過程だけフイルム包装をしています。
お買い上げ後はフイルムを外して戴いて結構ですが、墨がご家庭の環境に慣れるまで少し時間をおいて戴ければ有り難いのですが。
墨の枯れには適度の湿気も必要なのです。
ただフイルム包装をしていましても、墨は販売店で過度に乾燥していますから過度な湿気は禁物です。