墨・和文具のお話し

墨・和文具のお話し (墨3)

■「墨磨り機」も進化しています

「墨磨りから解放されたい」を形にした初代から、大型でも手磨りに近い磨墨液が得たいと、手の動きを模して、縦横の複雑な動きをする往復型などを経て現在に行き着きました。
・手磨りのように墨を水に浸けずに磨るには…
・手磨りのように力を入れ過ぎず磨るには…
・粒子の細かい磨墨液を得るには…を形にしました。

「より手磨りに近いものを、自分の硯で磨りたい」へのご要望に答えて、複雑な動きをする機械も開発してきました。しかし、縦横2方向へアームを動かせるため、動きに変調をきたしたり、確実な動きを確保するために重すぎたりと失敗もありました。

 

<現在の技術>
・硯面を斜めにすることで墨が長時間水に浸からずに磨れ、 しかも一点にしか荷重がかからずに、手磨りに近い荷重で磨れる。

ミ墨が点で硯面に接する。硯面が斜めだから墨が水に浸からない

・硯面に鋒鋩(ほうぼう)の粗密をつけることで「滲みや芯」が意識的に表現できる磨墨液が得られるようになりました。

にじみ

硯面を細かな粒子で均質に近く構成して細かく磨れるようにして、膠の働きを助けて、滲みやすくしました。

しん

硯面を細かな粒子と粗い粒子をで構成して粒子が粗細混在して磨れるようにして芯を表現しやすくしました。

滲 標準 芯

■天然膠液体墨の特性と使い方

天然膠液は気温18℃以下になりますとゼリー状に固まる性質(ゲル化)が有ります。このゲル化を止めるためには塩分を使用しますが、この塩分が墨の乾燥を遅らせ、表具性を極端に悪くする原因になります。塩分を使わない場合には短時間に宿墨状態になり、煤の凝集が始まります。天然膠の持つ特性、ゲル化、加水分解(膠が水中で水と炭酸ガスに分解)、腐敗を抑えるために大量の塩分を使わざるを得ません。

天然膠液体墨を濃墨にすることにより、塩分の使用量を極力減らし、表具性を改良しています。弊社ではそのためゲル化温度を0℃に設定しておりますので、5℃以下になりますと極端に粘度が高くなります。それ以下になりますと固まります。ご家庭ではできるだけ暖かいところに保管してください。もしゲル化した場合は40℃前後の温度のお湯に(お風呂の湯)容器ごと浸けて頂きますと元に戻ります。

濃墨に調整していますので、濃すぎる場合は薄めてお使いください。(冬場はお湯で薄めてください)
固形墨/膠製液体墨のご使用は室温18℃~20℃以上が理想的です。また、弊社の「硯・墨池保温シート」(別売)をご利用ください。

※ご注意  
天然膠製液体墨と合成糊剤を原料とする製品との混合はできません。

■漢字用と仮名用の墨の違い

一般的に仮名用(細字)・写経用はのびの良い墨が好まれます。そのため仮名用は、粒子の細かい植物性油煙を原料とします。粒子が細かくなればなるほど煤の表面積が大きくなり、それだけ膠の必要量も多くなりますので、流れは良くなりますが黒味は弱くなります。漢字用は黒味を大切にしますので、-般的には仮名用ほど細かい煤は使いません。現在の墨造りは、仮名用も漢字用も良く分散するようにできています。仮名用の硯は小形の物が多いので墨も使い勝手が良いように小型の物を造ります。作品作りの上で黒味を強く出したい時には漢字用を、黒味を押さえて品良く表現したい時には仮名用をお薦めします。

■書道墨と画墨の違い

私たち墨屋が、書道用の墨と絵画用の墨を造り分けるのには理由(わけ)があります。
何よりも作風の違いです。乱暴に断言すれば、「書は一筆で墨の潤滑を使った線で立体感を表現」し、「画は多層塗りと濃淡で立体感を表現」します。それ故、墨に求られる機能も大きく違ってきます。書の墨は一筆書きで重ね塗りはタブーです。画の墨は細線と塗り重ねで立体感を表現していきます。画の墨に一番に求められる要素は「塗り重ねても上光りしない」「濃淡の差が幅広く影現できる」ことが求められます。そのため、画家は古い墨を苦労して探されたのです。上光りを避けるために膠量をコントロールし、粒子径の大きな煤を使うなどしています。そうして造られた墨は広い面積の多層な塗り重ねにも上光りせず、画の奥行き、立体感を表現できます。墨は価格で選択せず、表現内容など用途で選んで頂くことが大切と思います。

■求められる濃淡表現

・墨の五彩を活かす書作品

墨の五彩を活かす書作品

・濃淡塗り重ねて

・濃淡塗り重ねて
・書道筆と画筆の違い

【書道筆】
穂先から7分位からしなる腰毛に、毛先の無い毛も使います。

書道筆

【画 筆】
穂全体が大きくしなる腰毛に、 全て毛先の有る毛を使っています。

画 筆

 

・書道筆と画筆の違い


書道筆と画筆の違い

■淡墨は必ず濃墨から

淡墨の作り方は色々あり、先生方もそれぞれ工夫されておられます。よく洗った硯で墨を濃く磨り、これを薄めて淡墨にした方が墨の分散も良く、黒色も優れているようです。薄める時の注意点は少しずつ水を加え、よく混ぜてからさらに水を加えるという手法が大事です。分散の良い磨墨液を作るためには、水温を20℃以上必要です。特に水温の低い冬場は40℃程度(お風呂の湯)の温水で磨ってください。薄める場合も温水で薄めてください。

■大和雅墨(だいわがぼく)とは

弊社の「大和雅墨」は和墨と唐墨の長所を取り入れた個性豊かな作品用墨です。超濃墨から超淡墨まで自在に表現でき、固形墨の中でも特異な性質を持っています。古くなればなるほどその個性を発揮する銘品です。一般墨と区別するため特に「大和雅墨」と名付けました。

■短くなった墨のつなぎ方

短くなった墨は磨りにくいものです。「墨バサミ」(別売)で挟んで使うか、新しい墨や短い墨どうしを継ぐと使い易くなります。この継ぎ方は両方の墨の水平の面を、硯で「ドロつく」程度に磨り、そのままお互いのすり面を合わせます。お互いの膠が解けて柔らかくなっていますから、うまく融合して一本の墨になります。継ぎ方が悪いと磨墨中に離れることがありますのでご注意ください。また、墨専用の接着剤「墨の精アルファ」(別売)もあります。

■墨の木型について

墨の木型は山に自生している梨(なし)の木を使います。伐採後製材し、十年以上乾燥させた後、木組みをします。彫刻や文字はもちろん逆彫りとなり、最も難しいのは底さらえです。これは印章と異なり、底が墨の表面に出るためです。現在では専門の型師も少なくなり、将来に不安があります。

墨の木型